現代の外食は「失敗したくない」という思いから、他人の評価やコスパに縛られがちです。しかし本来、食は自分自身の価値観で楽しむべきもの。話題の書籍『美食の教養』は、イェール大卒・世界128カ国・地域を食べ歩いた浜田岳文氏が、歴史や経済、文化、また作り手であるシェフの視点から「食の本質」を解き明かす一冊。単なるガイド本ではなく、情報過多な時代に「人生をより豊かにするための美食」を提示します。今回はそのエピソードを特別公開します。(ダイヤモンド社書籍編集局)
Photo: Adobe Stock
一生かかっても「中国料理」を
知り尽くせないワケ
中国は、広大な土地と長い歴史を持つ、文化的多様性に富んだ国です。
食文化も例外ではなく、地域ごとに異なる食材や調理法、味付けが根付いています。一口に「中国料理」といっても、その奥深さは計り知れません。
中国料理は、大きく8つの地域に分けられます(八大菜系:山東、四川、広東、江蘇、浙江、福建、湖南、安徽)。細かく語るとそれだけで一冊の本になるのでここでは触れませんが、それぞれ異なる気候や風土、歴史的背景によって、独特な食文化が発展してきました。
細かく分類していけば、数十の料理にも分けられるほどに、多種多様な食文化があります。
「中華=味が濃い」は誤解?
広東料理の洗練された真実
2023年だけでも僕は二度、中国に行きました。
改めて感じたのは、中国料理のすべてを知り尽くすのはいくら頻繁に訪れても無理かもしれない、ということです。
西洋のどこかの国、というよりは、西洋料理全体が比較対象になるくらい、広く、奥が深いからです。
中国では、高級料理というと、基本は広東料理です。広東料理は、中国四大料理のひとつであり、その洗練された味わいと豊富な食材のバリエーションで知られています。
清朝時代には皇帝の料理としても供され、長い歴史の中で独自の文化を発展させてきました。
広州は、19世紀初頭には世界的な貿易港としての地位を確立していました。そして、19世紀末から20世紀初頭にかけて、広東料理が海外でも知られるようになったそうです。
これは香港のフーディーに聞いたんですが、その当時広東省を治めていた支配者が食通で、有能な中国料理の料理人だけでなく、フランスからもシェフを招くなどして、美食を追求していたそうです。
そういった料理人たちの流れが今の香港の名店にも受け継がれているとのことです。
また、20世紀にアメリカを中心とした欧米に移民した人は広東省出身が多かったそうで、それらの国々では中国料理=広東料理、となったようです。
中華というと、味が濃いイメージがあるかもしれませんが、広東料理の一部は、味付けが驚くほど繊細です。食材の風味を生かし、日本料理と比べても薄味と感じる料理すらあります。
今、中国で一番うまい店は
「上海」に集まっている
そして今、中国の美食都市を選ぶとしたら、それは上海です。
昔はカジュアルな上海料理が美味しいくらいで、ミシュランの星付きといえば、広東料理。それも、香港で食べたほうが美味しいかも、というレベルでした。
それが、経済発展を遂げることで、美食にお金を払う人が増え、水準が上がりました。
コロナ禍の影響もあるのではないかと思いますが、最近は他の地方の料理を出す高級店が増えたり、他の地方にあった名店が上海に移転したりしています。
お客さんがいるところにお店が集まる、ということなのでしょう。
(本稿は書籍『美食の教養 世界一の美食家が知っていること』より一部を抜粋・編集したものです)
1974年兵庫県宝塚市生まれ。米国・イェール大学卒業(政治学専攻)。大学在学中、学生寮のまずい食事から逃れるため、ニューヨークを中心に食べ歩きを開始。卒業後、本格的に美食を追求するためフランス・パリに留学。南極から北朝鮮まで、世界約128カ国・地域を踏破。一年の5ヵ月を海外、3ヵ月を東京、4ヵ月を地方で食べ歩く。2017年度「世界のベストレストラン50」全50軒を踏破。「OAD世界のトップレストラン(OAD Top Restaurants)」のレビュアーランキングでは2018年度から7年連続第1位にランクイン。国内のみならず、世界のさまざまなジャンルのトップシェフと交流を持ち、インターネットや雑誌など国内外のメディアで食や旅に関する情報を発信中。株式会社アクセス・オール・エリアの代表としては、エンターテインメントや食の領域で数社のアドバイザーを務めつつ、食関連スタートアップへの出資も行っている。







