ここを改善すれば、ほとんど企業の中に眠っている“まだ見ぬ力”を引き出すことができる。そして、アサヒビールの『もぎたて』もそんな中から生まれた商品だった。

 平野社長が話す。

アサヒ、缶チューハイ一人負けを打破した「もぎたて」開発秘話缶チューハイの売れ筋は「アルコール度数高めのレモン味とグレープフルーツ味」。平野社長は、この“ど真ん中”の商品で堂々と勝ちに行くことを掲げた

「現在の売れ筋は、アルコール度数高めのチューハイです。なかでも、レモンとグレープフルーツは、最も売れる“ど真ん中”の商品。ここで勝負して勝つんだ、と宣言しました」

 缶チューハイの新商品を開発するマーケティング部と研究所のチームには、使ってよい時間も、方法も、制限を設けなかった。これにより、冒頭の例えを使うなら、工員Aに対し、大きな権限が与えられることになったのだ。

お客が求めていたのは
「搾りたて」の味

 その後、工員Bの役――開発担当者に選ばれたのはマーケティング第二部・宮广(みやま)朋美氏だった。彼女はまず、徹底的なマーケティングを実施した。『スーパードライ』開発時に匹敵する5000人規模の消費者調査を行ない、結果を分析したのだ。

「お客様に今のチューハイの不満点を聞いても『おおむね満足』という結果しか出てきません。しかし、質問の仕方などを工夫していくと、注目すべき意見も出てきました」。

 例えば“人工的な香りや味がする”とか“果実の味よりアルコールの味が強い”といった言葉で、果汁感に関する不満点が見えてきた。また、居酒屋に行くと、レモンやグレープフルーツを自分で搾ってお酒と混ぜるチューハイが出てくる場合がある。これがとても人気が高いということも分かった。

 つまり、調査結果を総合すると『缶入りのチューハイには、居酒屋の搾りたてのチューハイにあるフレッシュさがない』という意見が見えてきたのだ。

 これは、缶チューハイである限り「仕方ない」とされてきた問題だったのだが、改善の余地は本当にないのか。まず検討したのが、フレッシュな果汁を使えないかということだった。一般的に、缶チューハイの果汁は効率性を重視し、もいだ果実を一定量になるまで集めてから搾汁する。すなわち、収穫から搾汁までに数日間かかってしまうことが多いのだという。

 だが、宮广氏はここに商機を見出した。

「仕方ないと思うのは、私たち提供者の都合です。お客様が望んでいるのは、居酒屋さんで飲める搾りたてのチューハイ、これが理想なのです」