寿命が延びたからこそ生じる、仕事、キャリア、生きがいの問題に、いま、わたしたちはどう向き合うべきか。実は半世紀も前に、ドラッカーのアドバイスは用意されていた。
1970年代に収録されたドラッカー本人による「幻の研修テープ」が、このたび初めて翻訳され、書籍化された。最終回は、「第2章 上司として成果をあげる」より、本文の一部を無料公開する。

 私たちは、組織やチームで働くなかで、さまざまな役割を持っています。

 “上司として”、部下や後輩、他部署の人々をいかにモチベートするか。社長・役員・部長などトップマネジメント層の“部下として”、いかに上司をマネジメントするか。さらには、“横の関係”、つまり同僚やスペシャリストといかに連携をとるか――。

 衆知を集めて成果につなげていくには、コミュニケーションは避けて通れません。『われわれは いかに働き どう生きるべきか』で紹介されたアドバイスのなかで、最もシンプルで行動に移しやすく、かつ、効果が大きい一節を紹介しましょう。

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マナーは、考えられている以上に重要

ピーター F. ドラッカー
(Peter F. Drucker)
没後10年を超えたにもかかわらず、世界中から注目され続ける「知の巨人」「マネジメントの父」。「もしドラ」の題材となった『マネジメント』、IT起業家のバイブルとなった『ネクスト・ソサエティ』など、その著作は生涯で50冊以上にのぼる。
詳しくは、
ドラッカー日本公式サイト http://drucker.diamond.co.jp/

ドラッカー:人には、身につけることのできるものが三つあります。知識と、スキルと、マナーです。私は、この三つの中では、とりわけマナーの重要性を強調したい。一般に考えられているよりもはるかに重要です。

 人間関係で問題とされていることのほとんどは、実はマナーに起因します。適性や性格ではありません。思いやりさえ、マナーに関わるもの(注1)です。

 私の知っているある若手の企業役員は、仕事本位のやり手でした。しかし、社内では思いやりのある優しい人で通っています。これもマナーのおかげです。

 この人は、全社員の写真入りの名簿を持っています。そこには、誕生日と結婚記念日と子どもの名前が書いてあります。毎月秘書がその月の社員のリストを用意し、毎日15分はそれらの人たちへの電話に費やしているのです。

 部下は皆、彼ほど思いやりのある上司はいないと思っています。仕事本位の、むしろ冷たい人物です。しかしこの人には、身につけたマナーがあるのです。

 知識とスキルとマナーは、誰でも身につけることができます。そして誰もが相手に要求するものです。

 しかも、人の強みは、知識とスキルとマナーがあってこそ発揮されます。そうして実績がつくられていきます。

 何が強みかは、実績から知る他はありません。実績によって所を得る(注2)ようになるしかありません。

注1:心の底から思いやりのある人は多くないが、思いやり深く人と接することは可能である。マナーを身につけ、不要な摩擦を防ぐにこしたことはない、と説く。『ドラッカーの実践マネジメント教室』(上田惇生訳、ダイヤモンド社、2014年)に詳しい。

注2:「最初の仕事はくじ引きである」とドラッカーはよく言う。当然、合わないこともある。だからこそ、自分の強みを知り、強みが生きる仕事や貢献できる組織を探し、「所を得る」ことが大切である。

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『われわれはいかに働き どう生きるべきか』第2章では、ほかに「よき上司がなすべきこととは」「頭で答えを見つけようとしてはならない」「権力への欲求」などに対して、ドラッカー教授のアドバイスが示されています。

続きは、書籍をご覧ください。