寿命が延びたからこそ生じる、仕事、キャリア、生きがいの問題に、いま、わたしたちはどう向き合うべきか。実は半世紀も前に、ドラッカーのアドバイスは用意されていた。
1970年代に収録されたドラッカー本人による「幻の研修テープ」が、このたび初めて翻訳され、書籍化された。今回は、「第7章 生き生きと生きるために」より、本文の一部を無料公開する。

 30代、40代、50代……減退していく体力と反比例するかのように、仕事の責任、プレッシャーが増大していきます。働き盛りのマネジャー世代は、健康面やメンタル面で隠れた問題を抱えていることも少なくありません。

 ミドルエイジ・クライシス(中年の危機)とも言われるこの問題をドラッカーは半世紀も前に取り上げ、注意を促していました。

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増えるマネジャーの病気

ピーター F. ドラッカー
(Peter F. Drucker)
没後10年を超えたにもかかわらず、世界中から注目され続ける「知の巨人」「マネジメントの父」。「もしドラ」の題材となった『マネジメント』、IT起業家のバイブルとなった『ネクスト・ソサエティ』など、その著作は生涯で50冊以上にのぼる。
詳しくは、
ドラッカー日本公式サイト http://drucker.diamond.co.jp/

ドラッカー生き生きと(注1)働き、最前線で活躍し続けることを、もっと重視しなければなりません。

 問題は、変化が急になったことにあるのではなく、定型的な仕事が多すぎることにあります。そのため、疲れ、飽き、眠くなっている。

 これからは、マネジャーの仕事がチャレンジングになっていくだけに、由々しき事態と言えましょう。

聞き手:ほとんどの仕事が1年か2年で身につけられるものです。その後は、繰り返しがあるだけです。

ドラッカー:1年か2年かは知りません。しかし、20年でないことはたしかです。

 29歳にして、玩具メーカーで市場調査部の部長になったとします。

 最初の2、3年は、相当に面白い。その後の2、3年も、満足のいくものでした。ところが、その後は死ぬほど退屈になってしまうのです。

 知らなければならないことといえば、玩具とその市場調査のことだけ。ところが、まだ40歳にもなっていない。定年にはまだ25年もある……。

 こうして、中年のマネジャーに特有の病気にかかるのです。アルコール中毒になる。家庭生活も怪しくなる。精神科医にかかりつけになる。いずれも進行性の病気です。

 しかし、避けられない病気ではありません。予防薬は、仕事、趣味、社会貢献など、いろいろあります。

注1:仕事と労働(働くこと)は根本的に違うというのがドラッカーの持論。「働く者が満足しても、仕事が生産的に行われなければ失敗である。逆に、仕事が生産的に行われても、人が生き生きと働けなければ失敗である」(『マネジメント【エッセンシャル版】』より)。

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『われわれはいかに働き どう生きるべきか』第7章では、ほかに「継続学習の必要性」「成功する転職、行き過ぎた転身」「人生が延びたからこその問題」などに対して、ドラッカー教授のアドバイスが示されています。

 詳しくは、書籍をご覧ください。

第3回に続く>