中国にとって気がかりなのは、トランプ氏が自国第一の考えを強調していることだ。選挙期間中からトランプ氏は、「中国が不当に安価なモノを米国に輸出してきたために鉄鋼業などの産業が衰退し、国民の雇用機会が奪われてきた」と主張してきた。それがグローバル化に反感を持つ有権者の支持を集めたことは無視できない。当面、トランプ政権が米国第一の考えを修正することはないだろう。

 トランプ氏が公約した通りに米国の雇用を増やすために、中国からの輸入品に対する関税率を引き上げることは一つの選択肢である。米国政府が中国を為替操作国に認定する可能性もある。そして、トランプ氏は貿易政策を統括する国家通商会議を新設し、対中強硬派の経済学者であるピーター・ナバロ氏を同会議のトップに指名した。

 こうした動きを見る限り、トランプ氏が中国を一種の“敵対国”として扱いつつ、実際に保護主義色の強い通商政策を進める可能性は高いとみられる。それは、米中の貿易摩擦だけでなく、南シナ海での覇権争いなどさまざまな軋轢を生むだろう。

 すでに、アジア各国の政治動向も変化している。アキノ前大統領政権下で中国の海洋進出に抵抗してきたフィリピンでは、ドゥテルテ大統領が中国寄りの姿勢を強め、米国とは距離をとりつつある。そのため、米国と中国の利害対立が深まるにつれて、アジア各国の政府も親中・親米の狭間で大きく揺れることになるだろう。

今後の米中対立の下で
わが国が進むべき道

 今後、国際社会を取り巻く状況は一段と不安定かつ不透明になるだろう。アジア各国を中心に多くの国が米国と中国の顔色をうかがう状況下、国際社会は多極化に向かいやすい。その場合、各国の利害が食い違い、政策面での連携は進みづらくなる。わが国は、何が自国の安定につながるかを冷静かつしたたかに考え、経済連携や外交政策の方針を練る必要がある。

 南シナ海や東シナ海での中国の活動が活発化する中、安全保障面からは米国との連携が欠かせない。多くのアジア新興国も、本音では米国の同盟国として連携していきたいと考えているはずだ。経済発展のための貿易、競争、そして投資などに関するルールの統一を国際的な規模で進めていくためにも、米国の力は必要である。

 しかし、米国があまりに保護主義に傾倒し“アメリカ・ファースト”に向かうなら、米国の求心力は低下し、中国になびく国が増えてもおかしくはない。そこで、わが国は米国と対立関係にある中国とも微妙な距離を保ち、主張すべき点は毅然とした態度で主張し実利を得ることを念頭に置くべきだ。中国が仕掛ける領海問題に関しては国際社会の問題として数の論理で臨みつつ、アジア経済のリーダーとしての立場を目指すのが現実的な対応だろう。必要に応じ、米国を巻き込んで経済連携を進める姿勢も求められる。

 こうした取り組みを進めるためには、親日国を増やすことが重要だ。経済援助を求められれば出すという“お人好しの外交”ではなく、インフラ投資などに協力する代わりに経済連携を求めていけばよい。

 インドネシア政府がジャワ島での高速鉄道計画への協力を要請したように、わが国の技術や信頼感はアジア各国との連携を進める武器になる。AIIB(アジアインフラ投資銀行)とのジョイントプロジェクトなどを進めることで、それなりに“中国の面子”を保つことも可能だろう。世界各国が自国優先の政治に向かいやすくなっているだけに、わが国は自力でアジア経済での存在感を高め、新興国の成長を取り込んで経済基盤の強化を進めるべき時を迎えている。

(信州大学教授 真壁昭夫)