拙著、『知性を磨く』(光文社新書)では、21世紀には、「思想」「ビジョン」「志」「戦略」「戦術」「技術」「人間力」という7つのレベルの知性を垂直統合した人材が、「21世紀の変革リーダー」として活躍することを述べた。
この第18回の講義では、前回に引き続き「技術」に焦点を当て、拙著『仕事の技法』(講談社現代新書)において述べたテーマを取り上げよう。(田坂広志 [田坂塾・塾長、多摩大学大学院教授])
上司の「言葉」が信じられない瞬間
今回のテーマは、「なぜ、どれほど隠しても『本音』が伝わってしまうのか」。このテーマについて語ろう。
前回の最後に、日々の商談や交渉、会議や会合の後、必ず、「反省」を行い、そこで起こった「深層対話」を振り返ること、「言葉のメッセージによる表層対話」のレベルにとどまらず、「言葉以外のメッセージによる深層対話」のレベルでの振り返りを行うことの大切さについて述べた。
しかし、「反省」において「表層対話」と「深層対話」を振り返るとき、この二つの対話が、ときに、矛盾したメッセージや相反するメッセージを発していることがある。「反省」においては、まず、そのことに注意しなければならない。
これは、どういうことか?
ある職場での、一つの場面を紹介しよう。
A君が自席に戻ってきた。先ほどまで別室で行われていたB課長との個人面接を終えたようだ。しかし、A君、どこか浮かない顔。それを感じた隣席の同僚、C君が聞く。
「面接、どうだった?」
「うん、課長から、色々と励まされたよ…」
そう答えるA君、励まされたという割に、元気がない。
「課長、何て言って励ましてくれたんだ?」
「君は、いずれこの課を背負っていく若手だ。君には期待しているぞ、と言ってくれたよ…」
「結構な励ましの言葉じゃないか。俺の面接のときは、今期の目標達成、ご苦労さん、良く頑張ったな、だけだったぞ…。期待しているぞと言われて、何が気になるんだ?」
A君、しばし黙っていたが、複雑な表情で、こう言った。
「いや、B課長、言葉では、『期待している』とは言ってくれるんだが、課長の雰囲気や目つきからは、あまり温かいものを感じないんだな。言葉だけは良いことを言ってくれるけど、本当は、そう思っていないんじゃないかと感じるんだな…」
そのA君の話を聞きながら、C君は、心の中で、こう思っていた。
「そういえば、先日、B課長の机の上に、『部下のモチベーションを高める言葉』という本が置いてあったな…。B課長は、A君のモチベーションを高めようと思って、そう言ったんだろう…。でも、B課長は、本当に、そう思っているんだろうか…」
これはA君とC君の間で自然に起こった、課長面接の「反省」の場面だが、読者は、何を感じるだろうか?