親孝行を経営理念に掲げ、社員に親孝行の実践を義務づけている会社がある。そもそも親のことなど会社に指示されるものではないはずだ。しかし、そこにはさまざまな効果があるようだ。
(文/「週刊ダイヤモンド」編集部 片田江康男)

 「親が、周りの人に自慢できる息子・娘となることが、すなわち親孝行である」──。

坂東太郎の青木愛さん(左)と鈴木聡美さん(右)。店舗にも「社訓 親孝行」と掲げられる。2人も坂東太郎に入社してから親孝行について真剣に考えるようになった
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 北関東を地盤に和食レストラン「ばんどう太郎」や「かつ太郎」など66店舗を展開している坂東太郎は、「親孝行」を経営理念に掲げている。同社を率いる青谷洋治社長は、親孝行をこう定義し、日々の生活のなかで社員に実践するように指導している。

 なかでも同社の初任給に関する指導は徹底されている。初任給を使って両親に親孝行することが義務づけられているが、その際の一挙手一投足まで指導される。「お父さん、お母さん、このお給料をいただくことができたのは今まで育てていただいたおかげです……」と板の間に正座して感謝の気持ちを伝えなければならない。一連の流れは4月に泊まり込みで行われる新入社員研修のなかで、ロールプレイングで練習する。

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 「なぜそこまでやるのかという声もありますが、そこまでしないと、人はやろうとしないし、できません」と青谷社長は話す。

  そして、実際に初任給が出た1ヵ月後、再び研修が行われる。そこでは、それぞれが初任給でどのような親孝行をしたのかを発表し、同僚たちの様子を知ると同時に、会社側が事前にそれぞれの両親から受け取っていた「子どもあての手紙」が全員の前で読み上げられる。例年、ほぼ全員がボロボロと涙を流しながら親の手紙を聞くことになる。親の自分に対する深い愛情を再認識する場となるのである。

 こうした行事を通して社員は否応なく親のことを考え始める。だが強制されているという意識を持つ者はいないようだ。入社1年目の青木愛さんは「両親に対して何かしなければとは思っていましたが、具体的には考えていませんでした。両親に対して感謝の気持ちを表すことについて、軽く考えていたと思う」と反省を口にする。今では親を思い、3年後に母にマッサージ機を買うことを目標に、仕事に打ち込むと決めている。