2011年4月から、3年2ヵ月に渡って務めた、新国立劇場の理事長のときも同じでした。芸術はまったくの畑違いの分野でしたが、組織を動かすという経験は、アサヒビールで十分学んでいます。

 新国立劇場運営財団の職員は約140名。支店や営業所などはありませんから、組織の人事は劇場の中だけで行なわれます。日々の仕事をまわすうえで、慣れた人のほうがスムーズに進むため、部署と人の配置は固定化されがちです。何ごともそうですが、流動性の低い組織は、次第に風通しが悪くなります。

 風通しの悪さは、生産性を下げたり、職員の士気を下げたりしますので、組織に緊張感を生み出すためにも、さっそく組織をまたいだ異動を行ないました。まったく経験のない仕事でも、どんどんやってもらうことにしたのです。

 どんな職場でも、最初のうちは、小さな混乱が生じます。しかし、しばらくたてば落ち着いて、きちんとまわるようになります。それが職員それぞれの可能性を拓くことにつながります。

「オレにはこの仕事は向かないのに……」と思っているのは、当の本人だけで、まわりからの評価は高いといったことが、かなりの確率で起きたのです。

 人事の流動性を上げると、人材開発につながるだけでなく、さまざまなポストや仕事が、誰にでもできるようになってきます。

 何より、組織が活性化します。

「この仕事は余人をもって代えがたい」というのは、一見プロフェッショナルの極みのようです。ところが、その人がいないと組織が止まってしまうということですから、組織の力をそぐマイナス要素でもあるのです。

 とくに小さな組織にとって、代わりがいることは大切なことです。

 職場のためにも、自分のためにも、新しいことを頼まれたら、まずは引き受け、やってみるのがおすすめです。