ビール国内首位のアサヒグループホールディングスが約9000億円の大型買収を決断した。業界内外からは「リスクが大きい」との声が上がるが、アサヒの真意は逆。手堅い買い物を選んだ結果だった。(「週刊ダイヤモンド」編集部 泉 秀一)
「日本vs中国の構図でどちらも譲らず、結果的に金額がつり上がった」。ある投資銀行の関係者は、巨大ディールをこう振り返る。
アサヒグループホールディングスは12月13日、ビール世界最大手であるベルギーのアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ABI)の東欧5カ国のビール事業を買収することで、同社と合意したと発表。買収額は当初、5000億円程度と見込まれていたが、約8883億円にまで膨らんだ。
この案件は、ABIと世界第2位だった英SABミラーの合併に伴い、独占禁止法への対応として売りに出されたもの。チェコ、ポーランド、ハンガリー、スロバキア、ルーマニアの5カ国の事業が対象となった。
ビール業界の世界再編は、ABIとSABの統合により「ほとんど片が付いた」とアサヒ幹部。「今回は残り少ない買収チャンスだった」(同)。
だからこそアサヒだけでなく、中国最大手の華潤ビールも買収に名乗りを上げた。投資ファンドも入札に参加したが、最後はアサヒと華潤の一騎打ちで争奪戦が繰り広げられた。
買収発表直後、業界内外から「高値つかみでリスクが大きい」という声が上がった。買収の報道が流れた13日、アサヒの株価は急落し、一時は前日比で6.4%下げ、終値は同4.2%安。巨額の投資リスクを嫌われた格好だ。確かに当初の予定から大幅に金額が上乗せされ、「買収額に割安感はない」(アナリスト)。
一見、アサヒはリスクの大きな選択をしたように思える。しかしその真意は逆。今回の大型買収は、限られた選択肢の中からできるだけリスクの小さい勝負を選んだ結果なのである。
安定的に稼ぐためベトナムを捨て東欧を選んだ
国内のビール系飲料市場が縮小する今、ビールメーカーにとって成長エンジンが海外なのは明白だ。「チャンスを逃して海外に投資しない方がリスク」と大手ビールメーカー幹部。では、出物が残り少ない買収案件のうち、どこを狙うのか。
アサヒには東欧の他にベトナムでの投資という選択肢もあった。ベトナム政府がサイゴンビール・アルコール飲料総公社(サベコ)とハノイビール・アルコール飲料総公社(ハベコ)の国営2社の売却を予定しているからだ。