小麦、牛乳、バター、チーズ、小豆…すべて国産100%
帯広に本店を持つパン屋、満寿屋商店。昨年末、目黒の都立大学にも店舗を構えた。同店がある都立大学、自由が丘、学芸大学はフランス風のパン屋「ブーランジェリー」が集まる激戦区である。ブーランジェリーが出しているのはバケット、カンパーニュなどのハード系、クロワッサン、パン・オ・ショコラなどのヴィノワズリーが主だ。そのあたり一帯はおしゃれなフランス風パンの店が占拠しているのである。
ところが、新参者の満寿屋は食パン、アンパン、クリームパン、コロッケパンなどが主力のベーカリーだ。つまりは「町のパン屋」である。おしゃれというよりも、庶民が好む味だ。しかも、ベーカリーはいまや町の商店街からも消えつつある。そのうえ、満寿屋といっても帯広では有名だろうけれど、都内では無名そのものだ。「すぐにつぶれるだろう」――店の開店チラシを見て、わたしはそう思った。
ところが違った。わたしがバカだった。同店は11月末にオープンしてから、連日、400人近い客を集めている。満寿屋は近隣のおしゃれなブーランジェリーから客を奪い、パンの激戦区でトップランクの人気店になったのである。なかには買ったばかりのパンの袋を抱え、近所にある公園、パーシモンホールのベンチに腰掛けて食べる人もいる。
さて、満寿屋の勝因は何なのだろうか?
東京店にやってきていた同社社長の杉山雅則に聞いた。
「うちのパンは十勝産小麦100パーセントです。副原料の牛乳、バター、チーズ、アンパンに使う小豆、コロッケパンのじゃがいもなどもすべて十勝産です。水も帯広の隣町、音更(おとふけ)の天然水を取り寄せています」
同店のパンはすべて国内産原料で、作られたものだった。それが勝因だったのである。
なんといっても国産のパン用小麦シェアはわずか3パーセントと言われている。十勝に本店がある店だからこそ、地元で獲れた国産小麦を使うことができるのだ。そして、満寿屋のように、国産原料でできたパンだけを売っている店はほぼない。