1677万色の生地を1mから、超多品種少量を可能にした染色技術ビスコテックスのプリンター群とビスコテックスのプリンター群と結川孝一・セーレン社長(右)、牧田博行・セーレン専務 ビスコテックス部門長 Photo:セーレン

 企業のビジネスモデルを根本から変革するイノベーションが起こることがある。福井市に本社を置く繊維メーカー、セーレンの「ビスコテックス(Viscotecs)」がそれ。ビスコテックスはITを活用した繊維(生地)の染色システムである。

「ビスコテックスは、セーレンが過去100年にわたって蓄積してきた繊維技術と、ITを融合させた集大成。その意味で開発期間は100年です」。こう語るのは、同社社長の結川孝一だ。

 創業は、大日本帝国憲法が公布された1889年と古く、京都から送られてきた絹の生地から、ごみなどの不純物を取り除く「精練」工程をなりわいとしていた。社名の由来もここにある。

 その後1923年には、染色加工業に進出。日本の繊維産業は、戦後の復興・高成長期に絶頂を迎えるが、71年には対米繊維輸出の自主規制の実施、2度のオイルショック、85年にはプラザ合意による超円高と、立て続けに大激震に見舞われ、同社もまた存続の危機に直面する。

 そのさなかの87年に同社社長に就任したのが、現会長の川田達男である。

 当時セーレンでは、生地に柄をプリントする際の見本刷りを簡単に作製するために、見本刷り機を製作していた。それを見た川田がこう宣言した。

「これからの世の中は、これが見本刷り機ではなく、量産機になるんや」。この瞬間からビスコテックスの開発が、本格的に始まった。