消耗品ビジネスから転換した
エプソンの「逆ジレットモデル」
ヒゲ剃りのジレットが、柄は安く提供して替刃で儲けるところから、そのビジネスモデルは通称「ジレットモデル」(消耗品モデル)と呼ばれている。我々が自宅で年賀状を印刷するときに痛感するように、インクジェットプリンタもジレットモデルの典型例と思われてきた。
しかし、そのプリンタの世界に「逆ジレットモデル」が誕生した。それもアウトサイダーではなく、世界のプリンタ3強の中の1社であるセイコーエプソン株式会社(以下エプソン)が始めたのである。
エプソンは早くから、東南アジアでインクジェットプリンタを販売していたが、インドネシアでは苦戦していた。それは、現地業者が勝手に外付けタンクを作り、それにインクを注入して売っていたからであった。流通業者もプリンタ購入後、ユーザーがインクカートリッジを買いに来てくれないため、儲からない状況になっていた。
インドネシアでは、業務用で多数印刷する会社も、日本の家庭用にあたるプリンタで印刷している例が少なくなかった。他社製プリンタも同じ被害に遭っていたが、それを阻止することは難しいと思われた。
そこでエプソンがとったのは、「そのようなプリンタが人気があるなら、自らそうしたプリンタを発売しよう」という決定であった。現地業者のタンクやインクは、インク漏れがあったり、それが原因で本体を壊したりすることもあった。しかし、エプソンが純正でそうしたプリンタを作れば、信頼性は高い。しかも同社は、1年間の保証をつけた。
「本体は安くして、消耗品で稼ぐ」という従来のビジネスモデルを変えることは同社にとって英断であったが、「利益が出ないなら、ビジネスモデル自体を変えよう」ということで意思決定が下された。