今回の震災の被害は甚大である。震災の全容を踏まえた企業金融面に関する対応策の詳しい提言は、次回以降の「真・金融立国論」にて触れるとして、取り敢えず、政策面で漏れがちな論点を中心に簡単にまとめておきたい。

財政出動

 今回の震災被害に照らし、被災地復興に向けた要支援資金の額は膨大なものになると予測される。23日に内閣府が発表した試算では、被災地の直接的な被害額だけで16~24兆円にものぼるとされている。しかも、これは道路の寸断、部品供給の停滞、計画停電の影響、消費心理の低迷などを織り込んでいない数字である。

 こうした中、既に各党からは、20兆円規模とも言われる財政出動を唱える声も出始めている。しかし、「真・金融立国論」(第6回)で指摘したように、現在の30兆円台の税収の中で44兆円もの国債を発行している現状に、20兆円もの新規国債を追加することは自殺行為に等しい。民主党政権は、15年度までに基礎的財政収支の対GDP比率を半減させるという目標を掲げ、これは党派に関係なく、いわば日本の国際公約になっているのだ。これを守れないとなると、日本国債の格付低下から金利の急上昇(国債価格の急落)を招く恐れがある。従って、今後の政策で取るべき優先順位は以下の通りである。

① 極力財政出動を伴わない支援策を講ずる。規制緩和などで民間企業の活力や家計部門の資産が活用できるのであればそれを最優先に使う。

② 不要不急の財政支出を抑制し、予算の組み替えや対象工事の組み換えで復興対策に充当する。子ども手当て、高速道路無料化政策(休日1000円政策の見直しを含む)、農家戸別所得補償はもちろん、被災地以外で行なわれている不要不急の公共工事は即刻棚上げするのが当然だ。

③ 仮にそれでも財源が不足して国債の増発が必要となった場合でも、上記国際公約を遵守するために、完全に別枠の「復興支援債」のようなものを創設の上、別管理することにより、国際公約は遵守する。

④ なお、一部に増税の議論があるが、例えば省エネなど震災関連で必須の政策目的に合致したものへの増税はよいが、将来見通しが不透明な中で消費税や所得税などに手をつけることは回避すべきだろう。逆に、寄付金を税額控除できるようにするなどして、個人の意思で被災地に資金が回る仕組みの方が消費者心理に与える影響は少なかろう。