実際に体験するとすさまじい
人に教えることで自分がいかに学ぶか

――ドラッカーは「教えることで人は学ぶ」といいました。ご自身も大学で教鞭を執られているとのことですが、どのようにして機会を得ましたか。

 人に教えてみることで自らがいかに学ぶか。これはすさまじいものがあります。実際に教えてみればわかることですが、資料のまとめ方、どうすれば伝わるかを必死で考えるようになります。新しい知識も仕入れざるをえなくなります。

 教えるチャンスを探す前に、まずは何を教えてみたいか、教えられるかを考えてみることです。ボランティアなら、教会とか職場の研修講師などもあります。地元大学で非常勤講師をするのも有力な選択肢です。後者の場合、大学関係者に連絡を取って可能性を探るのが現実的です。

 僕の場合、記者時代にささやかな研究会で講演をさせてもらったのがはじまりでした。以来教える魅力に取り憑かれて、母校カトリック大学図書館情報学部時代の指導教授に教えられる場はないか相談してみたのです。その後、その方が授業のゲスト講師として僕を呼んでくださり、その後に非常勤講師として半期の授業を持つ道を開いてくれました。

 方法などは今回の僕の本でも触れています。大学で教える機会を手にするのにかなり有力な方法の一つであると思います。

――トータルライフについてドラッカーが実践していた例などを教えて下さい。そのどんなところに心打たれましたか。

 ドラッカーさんの人生そのものがトータルライフの理想を示すものと思います。そこには豊かな人間模様が編み込まれていました。例えば、奥さんのドリスさん一人をとってもそうですね。本書でもふれたのですが、ドリスさんも実に驚くべきトータルライフの実践者です。68年間ドラッカーさんと連れ添い、四人の子どもを育て上げ、現在六人のお孫さんがいます。

 ドラッカーさんには世界中に友人がいました。ネットワーカーとして卓越していました。書く、教える、相談に乗るの三つを軸に、相互にバランスをはかりながら一つの全体として人生を歩みました。しかも、三つの活動いずれもが「超」の付くほどの大成功を収めました。

 ドラッカーさんが身を投じたのは企業経営のみではありませんでした。NPO、病院、公的機関についても書き、教え、相談に乗ったのでした。