4月1日、社名を変更して新たなスタートを切ったばかりのSMBC日興証券の社員が、顧客からカネを騙し取り、不正に流用していた疑いがあることが、週刊ダイヤモンドの取材でわかった。捜査当局も事態を把握、立件を視野に捜査を進めている。なぜ不正は起きたのか。日興はこれを防げなかったのか。事件の全貌を追った。

 それは顧客からの1本の電話で突如、発覚したという。2011年2月のことである。 「期日を過ぎたのに、いつまでたっても利息が振り込まれないのですが……」

東京・兜町本社に掲げる新たな社名の看板。変わったばかりでつまずいてしまった
Photo by Toshiaki Usami

 三井住友銀行傘下の大手証券、SMBC日興証券(旧・日興コーディアル証券)で、個人向け営業を担当する社員が、顧客から得た資金を不正に流用していたことが今回、週刊ダイヤモンドの取材でわかった。

 容疑をかけられているのは、都内の支店で営業員を務める40代の男性社員。関係者の話を総合すれば、男性社員は10年ほど前から、顧客に投資を勧めながら、資金を直接現金で受け取ったり、男性社員個人の銀行口座に振り込ませたりして、投資にいっさい回しておらず、私的に流用していた疑いが持たれている。

 被害を受けた顧客は、わかっているだけで十数人に及ぶものと見られ、「被害総額は少なくとも約9億円に上る」(関係者)模様だ。

  男性社員はこうして得た資金を、競馬などのギャンブルで被った損失や、消費者金融などからの借入金の返済に充てていたものと見られている。

それでも返済資金が足りず、次から次へと顧客から資金を騙し取り、別の顧客から得ていた資金の穴埋めに充てていた。これを繰り返してしまったがゆえに、見る見るうちに被害額がふくらんでしまったというわけだ。

 現在、男性社員は日興の調査や警察の取り調べにも応じ、容疑を認めているという。警視庁は今後、詐欺の疑いでの立件を視野に捜査を進めていく方針だ。

 「現金を私に預けてくれたら、1割の利息を保証しますよ」  

 男性社員は顧客に対して、一定の利回りを保証する架空の投資話を持ちかけ、有利と思わせるような勧誘を行っていた。

 なかには顧客から現金を受け取る際に、偽造した日興の社名入りの受領書を渡し、あたかも正規の投資商品であるかのように見せかけたり、利息に相当する金券の提供を約束したりするなど、悪質なケースも多く見られた。実際、自腹を切って金券を渡していたこともあったというから、顧客も気づかなかったわけだ。

 加えて、「顧客とは長い付き合いで、信頼を得ていた優秀な営業マンだった。昔は成績もよかった」(関係者)だけに、顧客も疑うことなく安心して資金を預けてしまったという。