「復興基金」構想の背景
連載第7回で述べたように、東日本大震災の被害は被災地の直接的な被害だけで20兆円規模になるとされているが、実際には原発事故・電力不足・サプライチェーンの寸断などによる企業活動への悪影響も大きく、日本経済全体に与えるインパクトは甚大である。
政府は、今後数次に亘る補正予算を組む方針とされており、最終的には20兆円程度の規模になると言われている。23年度当初予算では、税収を前年度比1.3兆円多く見積もった上で、新規国債発行額を44兆円台に抑え込んでいるが、今回の震災の影響を考えると、税収が前年を上回ることは非常に考えにくく、国債発行額は自然体でも45兆円を超えていくはずである。
これに加えて仮に20兆円もの新規補正予算を全額国債で賄うとすれば、まさに未曾有の事態であり、本年度の国債消化の可否が問われることは勿論、「2015年度までに基礎的財政収支のGDP比を半減させる」という国際公約の達成は極めて困難となり、国際的な信認を失う結果、場合によっては国債価格の急落をもたらし、日本経済に壊滅的な影響を及ぼしかねない。
政治家の一部には、日銀が国債を引き受ければいいという安易な議論があるが、連載第1回でも述べたように、これは日本への信認を失わせる禁じ手であり、抑制の効かない通貨安とインフレへの道に繋がるものである。
従って、かねて筆者が主張しているように、まずは民主党が掲げてきた経済効果の小さなマニフェスト施策を棚上げし、不要不急の公共工事を凍結して被災地に回すなどの工夫を重ねることにより、数兆円の予算を捻出することから始めるべきだろう。しかし、一般会計の公共事業費は総額でも5兆円弱、子ども手当は3兆円弱、農家戸別補償制度は1兆円弱、高校無償化で4千億円、高速道路無料化で1千億円の予算であり、これらの削減をどんなに頑張っても、せいぜい5兆円を捻出できるかどうかであろう。また、復興税の新設を主張する意見もあるが、1923年の関東大震災の時に取られた緊縮財政が大不況をもたらしたように、経済の見通しが暗い時期の増税には慎重さが必要である。