東京都内の下水処理場。上水道と同様、放射線物質汚染が懸念されているが実態は不明のままだ(写真はイメージ)
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「今は1日も早い事態収束を祈るほかない」。お手上げの状態に、下水道行政を管轄する国土交通省の担当者は天を仰ぐ。

 東日本大震災による福島第1原発事故で、関東一円の水道水から摂取基準値を超える放射性物質が検出されるなか、水面下では“もう一つ”の水汚染問題が懸念されている。それは“下水”の放射性物質汚染だ。

 現在、水道水と違い直接的に摂取しないという理由で、対処が後回しとなっているが、事態が深刻化すれば、公共事業や農業への悪影響もありうるという。

 下水道行政は、国交省が管轄、各自治体が事業主体だ。下水処理場で汚水を水と汚泥に分離し、浄化された水は河川や海に、汚泥は2007年から廃棄物処理法の改正で海洋投棄が禁止になったことで、すべて焼却処分されている。

 その処理過程で関係者を不安にさせているのが、汚泥焼却後に残された“灰”だ。下水に含有する放射性物質は、浄化水よりも汚泥により濃く残されると見られているが、汚泥は焼却温度850度程度の一般的な焼却炉で処理される。このため「灰に濃縮された放射性物質がそのまま残る可能性がある」(首都圏の自治体幹部)という。

 国交省によると、全国の汚泥の年間発生量は乾燥時で約221万トン(08年度)。問題なのはこの灰のうち、埋め立て処分されているのが15%程度にすぎず、4割がセメントや建築資材などにリサイクルされるという点だ。さらに深刻なのは、汚泥に多量のリンが含まれるため、灰の1割が農作物肥料として流通していることだ。

「汚染された水道水や雨水が流れ込む下水の汚染は確実」と自治体幹部。だが国交省からは3月31日現在、なにも通達がないという。

 国交省担当者は「汚染の実態も規制基準も不明」とし、「国から自治体に検査などを求めるのは不可能だ。各事業主体で対処していくほかはない」と明かした。なぜなら下水の汚染物質を規制する下水道法と水質汚濁防止法が放射性物質を想定していないからだ。

 国が動かないなか、すでに下水の汚染状況の調査に乗り出した自治体もある。北朝鮮の核実験を契機に、たまたま放射線量測定器を自前で購入していた関東のある自治体が調査したところ、汚泥からごく微量の放射性セシウムが検出されたという。法的な規制基準もなく、人体への影響も考え難い値のため公表は控えているが、継続してモニターする方針だ。

 ところが、放射線量測定器を備える自治体はわずか。別の自治体担当者は「国が率先してほしい」と切望する。しかし国交省担当者は「被災地の下水道復旧工事で、人手が足らない」とし、「下水道法と水質汚濁防止法の規制対象と規制基準を決める環境基本法そのものを変える議論が必要」と話す。

 だが原発事故同様、被害を最小限に抑えるには、迅速な初期対応が必要だ。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 宮原啓彰)

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