図抜けた好業績を続ける三菱商事は、従来、新興国投資にきわめて慎重だった。だが中期経営計画で中国などへの集中投資を宣言した。小林健社長は社内に染み付いた分散投資志向を打ち破れるか。
三菱商事は2010年10~12月期決算で、前年同期比91%増となる919億円の連結純利益(売上高4兆7980億円)を計上した。
昨秋の豪州大水害による原料炭の生産減を考慮し、通期純利益は従来予想の4000億円(同19兆円)で据え置いたが、ライバル三井物産の予想連結純利益の3700億円(同10兆5000億円)を上回ることはほぼ確実だ。
業界一の好決算を続ける三菱商事だが、はたして、その地位は未来においても盤石なのか。また連結純利益で肉薄する三井物産を上回り続けることができるのか。
商社の将来の収益力を占ううえで、重要な指標がカントリー・リスク・エクスポージャーだ。成長率は高いが、収益を損なうリスクにさらされている新興国や、政治や社会環境が不安定な国への投資資産割合を指す。
言い換えれば、各商社が現在、成長著しいBRICsをはじめとする新興国に、どれだけリスクを取って“攻め”の投資をしているのかを表す指標でもある。この指標に三菱商事の、強さとは表裏一体の弱点が表れている。
図(1)を参照してほしい。際立つのは、三菱商事のカントリー・リスク・エクスポージャーの対自己資本比率の低さだ。
丸紅は85.9%、三井物産は51.2%、双日は83.1%であるのに対し、三菱商事は26.7%と、6大商社中、最も低い。
国別エクスポージャーでも同様に、三菱商事の最大の投資先であるインドネシアでさえ、わずか6.0%にすぎず、三井物産におけるブラジル(18.8%)、丸紅におけるチリ(25.0%)のような“お得意先”が存在しない。さらに同社2位の投資先であるロシア(5.6%)では、ほぼすべてをサハリンのLNG(液化天然ガス)関連事業が占め、ロシア国民の所得や消費力が上がっているにもかかわらず、その消費関連市場に食い込んでいるとはいえない状況だ。
問題なのは、新興国の経済成長率(図(2))と比例するかのように、他社がカントリー・リスク・エクスポージャーを右肩上がりに積み増すなか、三菱商事だけが逆に後退させていることだ(図(3))。これでは成長期待を高められない。なにより、この体質では、後述する自ら掲げた中期経営計画が達成できない恐れさえある。
同社幹部の1人は「これまで歴代の経営陣から『どこそこの国が重要だ』と打ち出されても、掛け声に終わっていた。三井物産のように投資分野を問わず地域を丸ごと取りにいくという積極的姿勢に欠けている」と自省する。
その背景には「三菱商事に根強い慎重極まる分散投資志向がある」とこの幹部は指摘する。
三菱商事の国外の主な収益源は、安定性の高い欧米先進国が中心で、これまでリスクのある新興国への投資額は1ヵ国当たり自己資本比率10%以下になるよう抑えられてきた。まさに「石橋をたたいて渡る」海外戦略だ。