ベースは基本的な仕事力

(3)基本仕事力
 当然のことですが、海外で活躍するためには、国内でも活躍できる人でなければなりません。ということで、調査によって明らかになったのは、とにもかくにも基本的な仕事能力が大事ということでした。そもそも日本で仕事ができない人が海外で仕事ができるわけがないのです。

 では、海外で活躍するために必要な基本仕事力とは具体的にどのような能力を指すのでしょうか。調査によって明らかになったのは、大別すると、

●「戦略構想力」戦略的視点から挑戦、目標を構想できる能力
●「人材育成力」部下・後輩に対する指導・育成を行う力
●「経験学習力」業務経験から学ぶ力
●「ストレス対処力」ストレスに能動的に対処する力

 の4つです。いかがでしょうか。決して海外赴任者だけに必要な能力というわけでもなく、国内で人材配置を行う際にも考慮するような能力といえるのではないでしょうか。

 少し変わっているのは「ストレス対処力」で、単なる仕事上のストレスに対処する力というよりは、ストレスをうまくかわし、受け流す「スルー力」や、想定外のできごとが起こっても柔軟に冷静に対処できる「想定外対処力」が必要だということです。海外赴任者ならではのストレスがある、ということが想像できて、興味深いところです。

 私はこの「基本仕事力」こそ、海外活躍力の基本、土台となる能力だと考えています。どれほど語学力があっても、異文化対応力があっても、伝導力があっても、仕事ができないのであれば、まったく意味がありません。

 グローバル人材に必要な「海外活躍力」とは、土台となる「基本仕事力」の上に、仕事の経験やノウハウ、仕事の意味、といったことを分かりやすく伝える「伝導力」があり、その上に「異文化対応力」がある、といった3層モデルで考えるのが一番しっくりします。

 では、「海外活躍力」の土台となる「基本仕事力」を高めるためには、いったいなにをすればいいのでしょうか。それは結局、毎日の職場での業務経験を通して学ぶしかない、ということになります。

 人が業務経験の中で能力を高めるためには、現在の能力でできる業務よりも、ほんのちょっと無理をして「背伸び仕事」に挑戦し、その業務の「経験」を積み、その経験を振り返る「内省」を行って、次に生かせるノウハウにまとめ「持論化」をする、という「経験学習」のサイクルを回していくことが有効だと言われています。

「経験学習」は、デービッド・コルブという学者が提唱し、1990年以降、人材開発の世界に広まった概念で、人材開発の専門家の方には「また経験学習か」となるような馴染み深い言葉かと思います。そうなのです。突き詰めていくと、「グローバル人材育成」も、いわゆる「人材育成」とそれほど変わらないものであり、ありきたりな結論になりますが、「グローバル人材育成」の一丁目一番地は、現場での経験からいかに学ぶか、というところにあるということなのです。

(東京大学大学総合教育研究センター准教授 中原 淳、構成/井上佐保子)