露光装置は半導体の微細化を握る最重要装置で、上位機種は1台数十億円もする。顧客は最先端の半導体を量産する台湾TSMC、韓国サムスン電子、米インテルなど世界で10社に満たない。既存顧客以外の新規売上高を伸ばすには、ASMLの装置からの置き換えや追加購入を狙う以外にない。

 だがそれは顧客側にとってもリスクが高い。半導体露光装置は稼働を安定させるのに時間がかかるからだ。顧客の工場用に特別に調整した試作機を提供し、一定期間試用して気に入ったら購入してもらうというプロセスが必要になる。ここ数年の精機事業の赤字は、ASMLからの置き換えを狙い、開発コストを投じながらも受注に至らなかったことが原因だ。

 ニコンがASMLから顧客を奪うには価格や装置の生産性、技術でASMLを上回る必要があったが、ニコンの勝ち目は薄かった。例えば、精機事業での研究開発費の売上高比率は直近10年間の平均が10%程度(図(3))で、16年3月期の投資額は176億円。これに対しASMLは平均15%ほどで、同11億ユーロ(約1360億円)。ニコン全体の2倍にも及ぶ。

新製品不発で低迷の映像事業
構造改革が急務

 連結売上高の約70%を稼ぐ映像事業も危機的な状況にある。

 既存の一眼レフ市場の縮小に加え、先述したように新製品の発売中止や販売不振など、新しい分野での失敗が目立つ。数少ない成長市場のミラーレスカメラも、最後に発売した「Nikon1J5」の発売からほぼ2年、新商品は投入されていない。同カテゴリーでキヤノンがシェアを世界2位に伸ばしたのに比べると見劣りする。

 さらに、人員削減を行った精機事業に比べて固定費面でも改善が進んでいない。事業資産は売上高の減少に伴い減ったが(図(4))、人員は16年3月時点で1万5221人と、5年前から売上高が1700億円も減少しているにもかかわらず、ほぼ同じだ。

「10年以降にデジカメ市場が4000万台にまで伸びるとの予測を基に工場の新設や増員を行っていた。実際の市場が1000万台を切る今は明らかに過剰」と、芝野正紘・シティグループ証券株式調査部ディレクターは指摘する。

「経営体制にまで踏み込んだ抜本的な改革が必要」(岡副社長)とし、20年3月期までは構造改革期間としたニコン。活路は開けるのか。

 実は、精機事業のもう一つの柱であるFPD露光装置は、ニコンがいまだ寡占している市場。17年3月期も半導体露光装置の赤字がありながら、精機事業が大幅な増収増益予想となっているのはこのためだ。開発投資費用が掛かる最先端装置でのシェア拡大を狙わない、という方向性は正しい。さらに今のニコンに必要なのは、既存の映像事業で今後の成長分野に投資を行い、競争力を上げることだ。

 ニコンの財務体質は健全で、株主資本は利益剰余金の増加で毎年積み上がり続けている。岡副社長はROE(株主資本利益率)の改善を経営指標として重視するとしているが、株主資本に見合う利益を上げなければこの目標も達成できない。くしくも今年創業100周年を迎えるニコンには、「変わる覚悟」が問われている。