「社畜」人生を捨てて
「楽しい」仕事を手に入れた

 彼らはこれを、クアラルンプールのホームレスたちに使ってもらおうと考えている。ホームレスは自分で空いたペットボトルを集めて、そのマシンで、自分の「製品」を作る。そしてそれを自分たちで売るのだ。リサイクリングが日本ほど進んでおらず、かつライセンスなど持たない露店が山のようにあるマレーシアでは、そういったことが簡単にできる。

 このBiji-bijiは、イギリスで意気投合した4人の若者(3人がマレーシア人男性、1人がオランダ人女性)と、その後参加したフランス人エンジニアによって運営されている。CEOを務めるラシュビンはインド系マレーシア人。元アクセンチュアのエリートだ。オランダ人女性のゾウイーは、もともとアート系の仕事をしており、シートベルト製バッグの最初のデザインは彼女が手掛けた。現在は、人事とマーケティングを行っている。元音楽プロデューサーであり音楽事務所のマネジメント経験のあるアザムは総務、そしてインド系のガーブリートは化学者だ。

 フランス人エンジニアのマシューは、工学修士を取った後、フランスでシステムエンジニアとして働き、相当な高給をもらっていた、本国での「勝ち組」だった。

 だが、マシューの生活は、今の日本の言葉でいう「社畜」だった。言われた仕事を朝から深夜までこなすだけ。給料は人から羨まれるほどもらえるものの、彼はいつも「この仕事と生活は俺が望んでいるものなのだろうか」と自問していたという。

 4年ほど働いて、バカンスで世界各国を旅した。その後オーストラリアで接客の仕事などもやってみた。それも成功してずいぶんお金も稼いだ。だが、Biji-bijiを知った時、「これだ」と思ったという。

「フランスにいるときより、お金はないけどね。でも、楽しいよ」

 と彼は語る。

 Biji-bijiとはマレー語で「種」という意味だ。アップサイクルのためのアイデアの種を丁寧に育て、社会的企業として、持続的に成長していくのが彼らの目的だ。この試みは、マレーシアでも高く評価され、地元の優良起業家を表彰するアワードに輝いたり、Biji-bijiの作る「廃材を利用した家具」を見て、リーバイス社から、自社のファッションショーのステージ設営を依頼されるなど、世界から注目が集まってきている。

 そんな彼らのメインオフィスは、クアラルンプール中心部の住宅街にある大きな中古の一軒家だ。ごく普通の家の各部屋をプロジェクトごとのオフィスとしている。庭先で作業しているスタッフもいて、一見ただのシェアハウスに見える。

 これがマレーシアでも先進的な社会的企業だとは、誰も思わないだろう。こういった「型にはまらない」運営も彼らの面白いところだ。だが一方で、プロジェクト管理や人事、給与体系は、綿密に計算されている。世界的にも注目を集めつつある彼らのもとには、インターンやボランティアの希望者が毎日世界中から集まるという。彼らの力もうまく借りつつ、「ぼろ儲けはしなくていいが、持続可能性の高い経営」を目指しているのだという。

 筆者が取材して感じたのは、彼らは皆、自分で働く意味をこの会社に見出している、ということだ。マシューの例に代表されるように、自分の技術と知恵を活かして、社会の問題解決に貢献できる仕事をする、という生き方だ。そのためにフランスを離れたって、どうということもない。この柔軟さとリスクを恐れない姿勢から、「幸せな働き方」について、私たち日本人も、学べるものがあると思っている。

(モナッシュ大学マレーシア校 スクールオブビジネス ニューロビジネス分野 准教授 渡部 幹)