「大丈夫ですか? そんなことを言って」

「あら、私のことを心配してくれるの? ありがとう。でも、こういうことをはっきりと言える環境作りこそが、この国を発展させるために、まず最初に必要なことだと思うわ」

「そうですか……」

 彼女の強さに気圧された隆嗣は、気の利いた言葉を返せなかった。

「ねえ、日本のことを教えてくれませんか?」

「日本のこと……」

「そう、日本のこと。戦争に負けたのに、今の日本は世界でも有数の経済力を持っているし、その生活は最も成功した社会主義体制だって聞いたことがあるわ。日本は資本主義なんでしょう? それが、なぜ社会主義体制でいられるの?」

「うーん、難しいなあ。まず理解してもらいたいのは、日本は決して社会主義体制ではないということです。敗戦後、アメリカに指導育成された民主主義かつ資本主義体制の西側陣営の一員ですよ。でも、日本民族の特性なのかな、結果的に社会主義的な組織や慣習が根付いていて、国民総中流ということに安心する民族なんだ」

 社会学の講義で聞いた教授の言葉を懸命に思い出しつつ、自分の言葉と偽って講釈した。

「面白い国なのね、日本って」

「でも、今の日本では、そんな慣習も捨て去られようとしています。泡沫(バブル)景気といって、お金最優先の典型的なアメリカ型資本主義に変わりつつある」

 彼女は好奇に輝く瞳を向けてくる。

「判るような判らないような、でも興味深いわ。ねえ、友達になってくれませんか? これからも、日本のことや世界のことを色々と教えて欲しいの。外国の人とこんな話が出来たのは初めて、本当に嬉しいわ」

 隆嗣に異存はないし、違う意味での嬉しさを感じていた。

「もちろん、僕のほうこそ是非お願いします」

「次はいつ会えるかしら……」

「明日はどうですか?」

 隆嗣は堪えきれずに性急な提案をした。

「明日……ええ、大丈夫ですけど」

 彼女は戸惑いを見せながらも、はにかみながら承諾してくれた。

(つづく)