――本書の冒頭に出てきますが、迫り来る危機、それを克服しようとする涙ぐましい努力、そして努力もむなしく突き落とされた絶望のどん底、その果てに、悟りの境地で事後処理する姿……さまざまな人生の危機を象徴するような、一本の映画になりそうなエピソードですね。

中西敦士(なかにし・あつし)
トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社CEO。1983年生まれ。2006年慶應義塾大学卒業後、 新規事業立ち上げのコンサルティングファームなどを経て、青年海外協力隊でフィリピンに派遣。2013年よりUCバークレー校でビジネスを学び、2014年、サンフランシスコにてTriple Wを設立。2015年トリプル・ダブリュー・ジャパン設立。同社は2015年4月にニッセイ・キャピタルから7700万円、2016年2月にVCのハックベンチャーズと国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から1億2000万円の出資を受けた。鴻海ベンチャー投資のパートナーである“2020”からも資金を調達している。

「いまインタビューしてくださっているのはそうした尾籠(びろう)な興味よりも、起業やウェアラブル端末や介護問題へのご関心からだと思いますが(笑)。ことの詳細やどう切り抜けたかという迫真の部分は本書を読んでいただくとして、まず『便を漏らす』という状況をなくすにはどうすればよいか、ということから考えました。排泄をしない生命体になるとか、排泄物がビニールにくるまれて出て来るようにするとか、あらゆる選択肢をつぶしていって(笑)、排泄はなくせないが、予測ならできるのでは、というところにたどり着きました」

超音波をウェアラブルにする
専門家もできなかった発想

――そして、その予測のためには超音波を使って「お腹の中の様子」を見るわけですが、検査以外でウェアラブル端末として超音波を使うという発想は専門家からしても驚きだったとか。

「確かに体内を常時モニターするため、超音波装置をウェアラブルにする、という発想はこれまで医療関係者や技術者の間にはなかったようです。私はまったくの文系で、医療業界の常識など知らず、『排泄の予測』のための仕組みとして、最初に直感的に思いついたのが超音波でした。

 妊婦の検診では、胎児の様子が超音波ではっきりわかりますよね。膀胱や腸の様子も安全に『超音波で把握できるのではないか』と思ったのです。事実、たとえば、X線やMRIの磁気は、何度も、長時間身体に当てると有害です。しかし、超音波は無侵襲といって、身体への影響がきわめて少ない。超音波の医療検査は1回の診断を20分以内にするというガイドラインがありますが、われわれの端末は、5分に1回、数千分の1秒発するだけなので、1年間装着しても、年間累積で、1分にも満たない時間なのです」