問題を解決する「知恵」はどう生み出すか

前田 一点教えていただきことがあります。「UQスピリット」の第6条のこの一節です。

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一見矛盾するテーマを解決する知恵を一緒に絞り出すことが、仕事上の課題解決の決め手となることが多い。
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 この「一見矛盾するテーマを解決する知恵」とは、どのようなものなのでしょうか?

野坂 課題がわかって、人を集めて、段取りを整えた。だけど、それだけでは解決しないことがほとんどなんですよね。なぜなら、課題には「矛盾するもの」が多くあるからです。品質を高めたい。でもコストは下げたい。通信速度を上げたい。でもこれ以上、投資したくない。このように、課題が矛盾することが日常茶飯事なんです。お互いにトレードオフの関係にある課題を両方解決するには、知恵が必要になります。

前田 おっしゃる通りだと思います。でも、その知恵を出すのが難しい。

野坂 ええ。だけど、矛盾する課題でも必ず解決法はある。だいたい、この矛盾というのは、部署どうし、あるいは関係会社どうしの利害の対立が背景にあることが多い。しかし、お互いにその利害にこだわっていたら、一歩も前に進めません。だから、お互いにちょっと意識の範囲を広げて、お互いに譲り合っていく。そして、お互いが痛みを分かち合いながら、ウインウインの解決法を生み出す。お互いに率直に対話をして、悩んで、悩んで、悩み抜くことで、知恵は生まれるんです。

前田 そうかもしれません。お互いに自分の殻から一歩も出なければ、何一つ解決することなどできません。だから、お互いに絶対に守らなければならないポイントは何で、譲れるポイントは何かを解きほぐしていくようなコミュニケーションが必要ですよね。そのなかから、知恵は生まれてくるんでしょうね。

野坂 ええ。これは話が飛ぶかもしれないですが、国際政治の考え方が私たちの日々の仕事にも役立つと私は考えています。

前田 どういうことですか?

野坂 たとえば、フィンランドとスウェーデンの間に、オーランドという島があります。1920~1921年にかけて、オーランドがフィンランドに帰属するのか、スウェーデンに帰属するのかで揉め、その裁定が国際連盟に託されることになりました。

 裁定したのは、当時、国際連盟の事務次長だった新渡戸稲造さんです。新渡戸さんは「帰属はフィンランド。でも言語はスウェーデン語。そしてオーランドに自治権を認める」としたんですね。ある種、オーランドの独立を認めたようなものですよね。これはうまいですよ。三者とも一歩ずつ譲りながら、三者ともにメリットがある提案ですからね。この知恵で問題はうまく解決し、現在も三者から喜ばれています。やはり問題を解決するのは、知恵なのです。

前田 さすがは新渡戸稲造さんだと感嘆します。でも僕たちは、仕事をしているといろいろプレッシャーを受けますから、つい解決策として、「知恵」というより「妥協の産物」を出してしまいがちです。その結果、何もならないというケースが多い。「知恵」と「妥協の産物」の違い、その差を生むのは何なのでしょうか?

野坂 「考え抜いているかどうか」でしょうね。課題の本質は何なのかを考え抜いているか。「原因の本質はこれだから、だからその解決策はこれなんだ」という思考を徹底すれば、安易な妥協の産物は生まれないと考えます。こうした思考をもったうえで、上手に会議ができるようになれば、どんな困難な問題が生じても知恵を生み出すことができるようになると思います。

(対談おわり)