70際前後の「団塊の世代」が
とにかく元気なのはなぜか

 筆者の住むマレーシアの国教はイスラム教だが、マラッカ王国のころから、世界の貿易ハブだった歴史的経緯もあり、他宗教にも寛容だ。イスラムのモスクはもちろん、ヒンドゥー寺院、仏教寺院、キリスト教会もいたるところにある。

 先日、筆者の自宅近くのキリスト教会でジャズライブがあるというので、誘われて行った。実はそのライブ、日本人のアマチュアミュージシャンによるボランティアコンサートだった。マレーシアは日本ほど音楽産業が盛況ではない。もともとヨーロッパ、とくにイギリスの植民地だったため、アメリカ生まれのジャズはマレーシア人にとっては、いまひとつなじみの薄いジャンルである。

 そんな中、どのような経緯かはよく知らないが、日本人のアマチュアからセミプロのジャズ愛好家が、無償でライブをやってくれると聞いたので観に行ったのだった。教会の大ホールは日本の学校の体育館より広く、相当の大きさだったが、そこがほぼ満席になっていた。後で聞くと入場者は685名で、その教会でこれまで行われたコンサートイベントの最多記録だったそうだ。

 コンサートは日本から来たミュージシャンたちに加え、地元の音楽をやっている日本人、そしてマレーシア人のサキソフォニストやバイオリニストもゲスト参加した本格的なライブだった。演奏もプロ顔負けで、ジャズの有名曲を次々と披露、2時間たっぷりと演奏してくれた。詰めかけた観客たちも皆喜んでいた。

 驚いたのは、そこにボランティアで来てくれた日本人ミュージシャンたちが皆70歳前後のご高齢だったことだ。しかもコンサート前日の朝にマレーシアに着き、その日に現地ミュージシャンと練習して、翌日夜に2時間たっぷりライブを行うという強行スケジュールだった。英語も堪能で、MCでも観客は大いに盛り上がっていた。伺うと、元は一流企業の役員クラスの方たちだという。

 翌日、こちらで日本人ツアー客を相手に現地案内をしている方から伺ったのだが、客の中で最も元気なのが、60~70歳代の方々だそうだ。日本から早朝の飛行機で着いたら、すぐにゴルフに繰り出し、フルで回って、夜はおいしい店を探して飲み食いし、翌朝早くからまたゴルフ。合間に車で数時間かかる観光地も訪問するという。

 こういった例に限らず、日本人は高齢者のほうが、その下の世代より元気だという話はよく聞かれる。70歳くらいを中心としたいわゆる「団塊の世代」は、日本の高度成長期に最も働いた世代の人々だ。彼らから見ると、今の若い世代は「元気がない」という。事実、筆者が体験したように、自腹でマレーシアまで来て「趣味の」楽器演奏を2時間、700人近い聴衆を前にやってしまうのだから、その元気さにはびっくりするばかりだ。

 彼らが元気なのはなぜか。逆に言えば、若い世代に元気がないのはなぜか。経済的なゆとりが違うのはもちろんだが、実は心理的な不安が関係している。