総予測2026Photo by Kazumoto Ohno

2026年のグローバル経済をどうみるか。世界で最も影響力のある経済学者の一人、ポール・クルーグマンニューヨーク市立大学大学院センター教授は「世界的な景気後退リスクは50%超」あると予測する。特集『総予測2026』の本稿では、クルーグマン教授に世界経済、そして日本経済の行方、抱える課題などについて聞いた。(聞き手/国際ジャーナリスト 大野和基)

2026年に想定すべきリスクは
リセッションやスタグフレーション

――2026年の世界経済をどのように展望しますか。

 25年に始まった特に貿易・関税政策の不確実性によって、米国および世界経済は「見た目ほどの回復力はない」と思います。投資の先送り、コストの上昇、景況感の悪化は26年にさらに顕著になるでしょうね。26年のリスクは、成長の鈍化だけでなく、スタグフレーション、つまり低成長・高コスト経済となる可能性です。

――26年を予想するのに際し、25年に起こったどんな出来事や政策に注目しますか。

 やはり関税政策、貿易の不確実性でしょう。重要なのは高関税だけでなく、その予測不可能性です。翌日には変わる可能性のある関税率は、需要を著しく抑制します。

 トランプ米大統領の朝令暮改的な関税政策は、企業の投資計画の足かせとなりました。広範囲かつ不安定な関税政策は、直接的なコスト増だけでなく、投資の減速や信頼感の低下を通じて、成長率の低下を招く要因になります。

 またこうした混乱は、一時的なコスト圧力にとどまらず、インフレを高進させる可能性があります。前述の通りスタグフレーションのリスクとなり、ひいては世界経済に悪影響を及ぼすわけです。

 25年に発生した関税の大幅な上昇、政策ショック、投資の減速といった出来事は、26年の世界経済を形作るものになりますね。

――26年は悪いシナリオやリスクを意識すべきだと。

 想定すべきリスクはリセッションやスタグフレーションの可能性です。例えば、雇用はまだ「大幅な失業」には至っていないものの、採用ペースは歴史的に低い水準にある。世界的な景気後退のリスクは控えめに見て50%あると私はみています。

――米国は先生をはじめノーベル経済学賞受賞者を多数、輩出する世界の経済学研究の中心地です。その米国で、経済学の知見が現実の政策に反映されない状況が続いているように見えます。なぜなのでしょうか。

 政策立案者は「理論的に正しい」よりも、実行可能で妥協可能な手段を優先します。また短期的な人気や選挙の勝敗を優先します。われわれ経済学者の分析は長期的・構造的視点が多く、こうした短期の政治判断と相反するのはよくあることです。

 私は政権が共和党であれ、民主党であれ、現政権を理論的に批判することに価値を置いていますが、理論的に正しくても議会では取り上げてくれません。財界・業界団体・ロビイストは自分たちの利益を重視するため、経済学者の提言と真逆の政策が通ることも普通に起こることです。

 貿易政策や関税の乱高下は、一部の業界や政治家の利益に基づく決定が多く、合理的経済分析が反映されにくい端的な例でしょう。

25年に始まったトランプ関税、政策の不確実性などは世界経済に悪影響を及ぼし、世界的な景気後退のリスクは「控えめに見て50%ある」とするクルーグマン教授。日本経済、高市政権の経済政策についてはどう見るか、さらに聞いた。