隆嗣と立芳は、すでに結ばれていた。
最初は、彼女の美しさに惹かれた。やがて彼女の言葉に滲む聡明さに囚われ、その一途な瞳に10代のときめきを呼び覚まされた。今、彼女の奥底に潜む堅い芯が発する優しさを知るに及び、隆嗣は幼な子が母親の胸元から離れがたいのと同じような甘い執着心に浸っていた。
時折みせる彼女の辛辣な言葉の端からも、隆嗣は自分への優しさを汲み取ることが出来るようになっていたが、彼女が内包する優しさは祖国を憂う純粋な何ものかに昇華していることも理解していた。
その危うさが、彼女への執着心を更に煽る。そんな彼女を守り通すことができる人間になりたい、早く大人になりたいと、隆嗣は初めて思った。彼の覚悟を肌身で感じ取ってくれたのか、彼女も隆嗣に対する壁を次第に取り除き、自然と距離が縮まっていった。
初めて肌を合わせた時、それまでは虚飾に覆われた性交しか知らなかったのだと喜色に満ちた後悔を得た隆嗣は、殉教者のような献身を表した。そんな自己陶酔に溺れる隆嗣を、立芳は神々しい慈眼と姿態で受け止めた。
当時は中国人が、ましてや学生が、容易に外国人と緊密な交際ができるような状況ではなかった。ジェイスンを始めとする留学生仲間や、立芳の友人たちの応援と協力、それに幾らかの冷やかしを受けながら、二人は通い合う互いの心を育み、そして決心した。