そんなことはない、綺麗で若々しい素敵な方です、とは口に出せないまま、幸一は首を振るだけだった。そんな幸一の気持ちを、岩本会長が違った意味で代弁してくれる。

「いやあ私の持論ではね、女性が一番輝いて見えるのは四捨五入で30歳、つまり25歳から34歳の間だと思うんだ。子供でもないし、枯れてもいない」

「あら、それでは、私にはあと4年しか残されていないということですね」

 慶子の言葉に笑いが起こる。

「そんな女性の華の時期を、中国人相手のビジネスで過ごすのはもったいない。気が休まらないでしょう」

 打ち解けた空気に任せて、幸一も積極的に話し掛けてみた。

「ええ、山中さんのような中国通の方がうらやましいわ。中国には長いんですか?」

「今年の2月からです。まだ半年も経っていません」

「えっ、あんなに中国語がお上手なのに?」

 彼女が驚きの声を上げる。中国へ来て以来、幸一の語学力を賞賛する中国人たちを相手に幾度も説明してきた話を、慶子に向けて繰り返した。

「シンガポールで教育を受けたんです。言葉は判りますが、この国にはまだ初心者なもので、戸惑いの連続です」

「川崎さん。今後何かあれば、是非ご連絡ください。せっかくのご縁だ、互いに助け合うことができればいいですな」

 岩本会長が言葉を掛けると、慶子が反応した。

「ありがとうございます……。そうだ、お言葉に甘えて、早速相談したいことがあるのですが……。実は、一つだけ困っていることがあるんです」

「なんでしょう」

 岩本会長が身を乗り出す。