「ちょっと恥ずかしい話で恐縮なんですけど……父の会社のお客様が、上海へ視察名目でいらっしゃることが結構あるんです。私がお相手をさせていただき、上海観光やショッピング、それに夕食まではアテンドできるんですけど、その後が、女性の私ではなかなか手配できなくて。お客様が安心して飲んでいただけるお店、女性がいらっしゃるお店に、心当たりがおありでしたら紹介して頂きたいのですが。山中さんは大連にお住まいなんですよね。上海はご存知ありませんか?」
「それは、『クラブかおり』がいい」
岩本会長が即座に答えた。
「君は行ったことあるかい?」
幸一に問い掛ける。
「はい、初めて伊藤さんにお会いした時に、岩本社長と一緒に参りました」
答えながら、唄った後に睨まれた伊藤の目を再び思い出した。
「我が社の顧問をしてもらっている伊藤君という人間が上海にいてね。彼が日本人向けのクラブを経営している。上海の中でも高級店の部類で、可愛いお嬢さんがたくさんいるが、そこのママはしっかりした人で、女の子の教育もちゃんと出来ている真面目な店ですよ」
岩本会長がやけに詳しいので、幸一は驚いた。
「それは是非紹介してください。おふたりは、今回上海へは行かれるんですか?」
「はい、明朝の便で上海へ」
幸一の答えを聞いて、慶子が更に畳み掛けてきた。
「私は、明日夕方の飛行機を予約しているんです。お会いできる時間はありませんか?」
「私はそのまま上海で乗り継いで、午後の飛行機で日本へ帰りますが、山中君、君は上海に1日くらい残ってもいいんだろう?」
岩本会長の提案に、彼女にまた会えるかも知れない期待と、伊藤氏に会う不安とが同時に湧いて、幸一は曖昧に頷いた。
「伊藤君には、私から話をしておこう。川崎さんのご都合がよろしければ、明晩山中君に案内させますよ」
「ありがとうございます」
慶子は頭を下げ、幸一と互いの携帯電話番号を交換した。
(つづく)