介護保険制度初期のトラブルに翻弄される
【落合】妙なサービス精神でしょ。こんなことをやっている私ってなに? と。ご飯をつくる時間があるなら、もっと母と向かい合って、彼女と話ができるはず。介護保険のそもそもは、そのためのものだったはずなのに。
【橋中】ええ。
【落合】場合によっては夜食までつくって。でも、1回そうしてしまうとやめられない。人間って不思議なもので。結局は、自分の問題なのですが。
【橋中】介護保険の草創期のお話、よく聞きます。誰でも参入できた時代で、逆にご家族の負担が増えちゃったんですよね。
【落合】利用者のほうも、ヘルパーさんたちに家族の家事を求めたり。
【橋中】今はずいぶんよくなりました。選択肢も増えて、ようやく介護に必要なサービスがそろった感じです。
【落合】介護保険に関してはいろいろな方たちが発言して、変えてくださって、改善されたと思うけど、私のころは、助けてもらえるはずの制度に振り回されていましたね。
【橋中】居宅介護支援事業所との行き違いもあったんですか。
【落合】何回かありましたね。雨後のタケノコのように、事業所が立ちあがる時期があったでしょう。ここには、十分な人員がいないのではと思うような事業所もあった。かつて病院の付き添いの仕事をされていた女性が来られたことがあって。年代的にもかなり上の方で。母の部屋に入ってソファで、ずっと寝て帰った人もいらっしゃった。
【橋中】えっ! でも、起こせないですよね…。
【落合】疲れているんだから、仕方がない。ご苦労の多い人生を送って来られたと思うから、黙ってそのまま。4時間半くらい経って目が覚めて、すごく困った顔をされて。「今日はいいから。ご飯を食べて帰って」と。そうとしか言えなくなっちゃう。
【橋中】事業所もそうだし、人によっても違うんです。今お世話になっているケアマネさんは、男性ですごく優秀な方。無理なリクエストをしても嫌な顔をせず、「とりあえず聞いてみます」とおっしゃる。しかも、誰にでもそういう対応なんです。
【落合】なかなかできないよね。
【橋中】プロでも言えないですよ。「ショートステイ、急だけど入れますか」と問い合わせて、私のほうにも「今日子さん、施設がいっぱいみたいですけど、スケジュールは変更できますか」と。その一言があるだけでずいぶん違う。こちらの都合や思いを受け止めてくれる。その姿勢が大事なんですよね。彼から学んだので、私のところに相談に来る方にも「ダメモトでも、とにかく聞いてみて」とアドバイスしています。
【落合】聞いてくれる人がここにいる。解決するかどうかはまた別だけど、こちらの事情を汲んでくれるだけでホッとしますよね。