日本企業の3月期決算が発表されている。日立製作所は過去最高益を更新した。その他にも、大震災の影響を新興国の需要増や構造改革の効果で補った企業が多い。やはり、円高のメリットを享受した企業は予想以上に多かった(「2001年を読む5つのポイント」を参照のこと)。日本企業の海外展開は既に相当進んでおり、この流れは大震災によって更に加速するだろう。

「やらない」という提言がない
復興構想会議

 震災により、日本が独占してきた高品質の部品や産業素材の生産拠点が破壊された。今後、アジアなどのメーカーがそれを代替生産し、日本企業自体もアジアに生産拠点を移管させる。日本の技術の核心部分が海外流出し、日本が独占していた分野も世界的な大競争となる(第8回を参照のこと)。

 震災からの復興後に、すべての製造業が元通りに復活するというのは幻想に過ぎない。菅直人政権は、本当に競争力があり、成長が期待できる産業のみを日本国内に残し、それ以外は「やらない」と決断すべきだ。そして、製造業による経済成長に価値を置かない、「豊かな国家」像を国民に示すべきである(第6回を参照のこと)。

 だが、菅政権が復旧・復興策を議論している「復興構想会議」などは、新しい国家像を構想する場となっていない。ここでは、被災者、財界、業界、専門家、有識者、政治家などからさまざまな提案が持ち込まれる。具体的には、住宅などの高台への集団移転を検討する方針、農漁業の再生に向けた集約化・経営効率化、税制優遇や規制緩和を地域限定で進める「震災復興特区」などの課題が浮上している。

 だが、被災地の自治体が「1ヵ月間も議論して、この程度では心もとない」と会議に不満を表明するなど、会議の参加者の満足度は低い。また、村井嘉浩宮城県知事が「国が多くの負担をする、責任を負うと書き込んでほしい」と述べるなど、費用負担を国に要求する訴えばかりである。

 前回でも指摘したが、政府はこれらの要望を断った場合、マスコミなどから「指導力不足」と厳しく批判される。だから、政府はすべての要求に対応し、費用もすべて負担する。「復興構想会議」でも、菅政権が「やらない」という決断を下し、日本の新たな国家像を構想するのは、政治的に難しいのが現実だ。