訝しむ隆嗣に、岩本がやや小さめの声で告げる。
(実は、川崎産業が自己破産したんだ。倒産だよ。たった今情報が入った)
「川崎産業と言えば……」
(そう、あの慶子さんのお父さんの会社だよ。昨年の建築基準法改定以来、マンションの着工が遅れて資金繰りが苦しかったらしいね。まあ、今年に入ってから、日本中のマンションデベロッパーが次々倒産していたが、川崎産業までとは……)
「そうですか」
隆嗣が幸一へ顔を向ける。岩本会長の電話らしいが、話の内容がわからない幸一は、不思議そうな顔で隆嗣の視線を受け止めていた。
(幸一君へ電話しようと思ったんだが、気が引けてね。それで、先に君へ電話したんだ)
「今、彼と一緒にいます」
(そうか、それでは……)
「まだ知らないようです。私から話します。わざわざありがとうございました」
電話を切った隆嗣が、幸一へ事実を告げた。
「川崎産業が倒産した」
「え、なんですって?」
幸一は、一瞬言葉の意味が判らなかった。
「今日、破産宣告したらしい。慶子さんは、上海にいるのか?」
「は、はい。そのはずですが……」
ようやく事態が脳に伝わり把握できた幸一は、慌てて自分の携帯電話を取り出して慶子の番号へ発信した。しかし、話し中で繋がらない。それから数分おき数十秒おきに何度も掛けなおす。傍らにいる隆嗣と石田は、焦燥に顔色が変わった幸一を見守るしかなかった。十数回目にして、ようやく呼び出していることを知らせる音が聞こえてきた。