「しかし、最終目的は日本市場です」

 幸一は不安を拭いきれないようだ。

「君の懸念はもっともだ。日本市場の落ち込みは続いている。住宅着工戸数は一昨年度の128万戸から昨年度は103万戸へと2割ダウン。今年度は100万戸割れもありうる。しかし、あくまでもこの工場は長期的戦略に立って始めた事業だ。まずはフォースター大臣認定を受けること。それと、フル稼働に対応できる体制を早く確立することだ」

 隆嗣が大局論を展開するが、担当者である幸一としては局地戦を見過ごせない。

「フォースター大臣認定は、試験結果が出たばかりで、これから国土交通省へ申請する段階です。お役所仕事ですから、正式認可が出るまで1ヶ月かかるか2ヶ月かかるか定かではありません。それに、認証が取れたところで、日本でポプラLVLを使う用途は今のところマンション用間柱が中心ですが、そのマンション市場が最悪ですから」

 消極的過ぎるかもしれないが、幸一の正直さがそんな意見を述べさせる。それくらい慎重な方が安心できると、隆嗣は内心で幸一を抜擢したことに自信を深めた。

「だからこそ内装材に必要なフォースター認証と併せて、構造用JAS認証取得へ向けた動きを進めておかなければならない。石田さん、構造用LVL生産についてはいかがですか?」

「そうですねえ、一番の課題は、耐水性と耐久性を要求される接着性能です。接着剤自体は、日本のメーカーが中国へ進出していますので問題ありません。しかし、現在のように単板を天日干しの後にホットプレスで乾燥させる方式では、含水率の不揃いによる性能のばらつきが心配ですし、生産量の限界がありますね」

 石田が技術者らしく簡潔に説明する。そこで、幸一が思い出したように声を上げた。

「そういえば、マレーシアで小径木用の単板ドライヤー設備が余っていると聞きました」

「どういうことだ?」

 隆嗣が問い、石田も好奇の目を向ける。

「あ、はい。リムというマレーシアの友人と、久しぶりに電話で話したときに教えてくれたのですが、ラバーウッド(ゴムの木)で合板を作る工場が、操業1年もしないうちに閉鎖したそうです。何でも、上場会社が株価吊り上げのためにアドバルーンとして始めた、最初から採算度外視の工場だったらしくて、その設備が売りに出されたと言っていました」

 隆嗣は腕組みをして考えこんだ。

「今すぐに追加投資というのは気が早すぎるが、とにかく詳しい情報を集めておいてくれ」

「わかりました」