東日本大震災による液状化は、千葉市美浜区の幕張新都心でも発生した Photo:JIJI

復旧、復興への道のりは、一筋縄ではいかない──。

 東日本大震災は、津波の直撃を受けた東北地方のみならず、首都圏でも液状化によって住宅が傾くなどの多大な被害をもたらした。その数は、千葉、茨城、埼玉、神奈川の4県の合計で約1万9000戸(5月18日時点)。

 6月1日、千葉県浦安市は、半壊、一部損壊の戸建てに対して、地盤復旧で100万円の補助金を支給する独自の支援制度をスタートさせた。

 それでも、高額な対策工事費の負担を軽減する一助にすぎない。市内では1物件で500万~1000万円もの出費となるケースもあったからだ。

 この金額を負担できたとしても、住民には難題が立ちはだかる。

 最大の難関は、住宅街ならではの“近隣対策”だ。地盤改良などを行う専門業者は、ため息交じりにこう愚痴る。

「液状化対策の工事を、戸建て住宅で1戸ずつ実施する際は、クレームが続出する。現実には、困難を極める」

 通常、液状化対策の工事は家をジャッキで持ち上げて水平に保ち、基礎の下を土やコンクリートなどに入れ替え、液状化しない地層にまで杭打ちを行うのが一般的だ。

 ところが工事の際に、周囲の住宅にも振動が広がる。工事車両の出入りも多いため騒音も続く。

 また、液状化対策では、自分の家だけでなく、隣家の傾きや変形の具合などを把握する家屋調査が必須となる。工事を実施するには、これらの点について近隣住民から事前に許可を得なければ事が先に進まない。

 加えて、工事車両の出入りをスムーズに運ぶには、自宅の周囲に一定のスペースを確保する必要もある。無理なら、道路の占有によるクルマの渋滞という新たなトラブルが住宅街に発生する。

 ある業者は「工事の規模が、対象となる地域で何十戸とまとまるなら、作業の効率化とコストダウン、さらに近隣対策の負担軽減ができる」と指摘する。

 それでも簡単ではない。マンションの大規模修繕工事や耐震補強工事のように、時間とコストの面で合意に至るまでの道のりは険しいからだ。

 より事態を混乱させる要因は、被害の有無とその度合いが市内の各所で異なる点にある。

 対策工事が必須のエリアでは住民同士の意見がまとまっても、工事を実施しないエリアや液状化が発生しなかったエリアと隣り合う地域では、前述の近隣対策でいかに火種を消せるのか。一筋縄ではいかない。

 交渉、説得、合意──。液状化対策の工事では、当事者の台所事情のみならず、近隣住民とのコミュニティ力が試される。その局面は、今後、確実に増えるだろう。

(「週刊ダイヤモンド」委嘱記者 内村 敬)

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