同じ頃、自分の部屋を出た祝平は、真向かいの客室のドアをノックしていた。
中から現れたのは隆嗣だった。
自分の部屋と同じレイアウトの室内に入った祝平は、上着の胸ポケットから通話状態になったままの小さな携帯電話を取り出した。
「話は聞こえたかな?」
「ああ、はっきりとね」
そう答えた隆嗣は、テーブルの上に置かれている自分の携帯電話を指差した。
「辛い話を聞かせてしまったようだね」
「いいや、覚悟はしていたよ。それより、君には嫌な役目をさせてしまって申し訳ない」
隆嗣の目には慙愧が浮かんでいた。
「気にするな、いつかは彼と向き合ってけじめをつけなければならない、俺はずっとそう思っていたんだ。それで、君はどうするつもりなんだ?」
隆嗣は煙草を取り出して火を点け、胸一杯に溜めた毒素を吐き出した。
「俺なりのケリをつけるさ。先ずは、あいつに100万元送らせるように仕向ける。待っていてくれ。学校が早く立ち直るよう祈っている。それより、君は早くここから立ち去った方がいい。タクシーをチャーターして待たせてある」