金融機関に頭を下げるのではなく「使う」意識を持つ

 現状の制度の課題や問題点が見えてきたところで、具体的な制度選択や設計を求めていくことになります。

 制度設計の根幹から見直すのであれば退職金のコンサルティングをしてくれる人事労務のコンサルティングオフィスや社労士事務所に相談します。ただし、制度を複雑にしすぎないよう注意してください。

 半期ごとの業務評価に連動するポイント制の退職金制度は理想的かもしれませんが、大企業向きです。全社員の入社から退職時までのデータベースを保持するようなもので、中小企業の社内で管理しきれないこともしばしばです。

 給与制度がある程度能力評価に連動しているなら、給与比例の掛金を確定拠出年金に拠出してその後の管理は行わないような割り切りも選択肢のひとつです。

 具体的な制度選択が見えてきたら、中小企業退職金共済であれば勤労者退職金共済機構に、確定給付企業年金や確定拠出年金なら金融機関に相談します。

 このとき、金融機関のネームバリューに萎縮して「ウチのような会社が○○海上さんと取引させていただけるなんてありがたい」のように、顧客が取引相手にへりくだっている例がしばしば見受けられます。

 確かに企業規模では比較にならないかもしれませんが、一国一城の主として、対等な立場で企業年金制度の契約をするわけです。頭を下げるのではなく「使う」のだという意識を持つことです。不満があったり具体的な希望がある場合は遠慮なく口にしたほうがいいでしょう。

今働いている社員のやる気と安心のために
社長自ら「語りかけよう」

 現状を把握し、問題意識を整理し、金融機関としっかり相談のうえ新制度のデザインを固めていったとしても、退職金・企業年金制度改革に取り組む社長が最後に考えるべきテーマがまだもうひとつ残っています。それは「社員に語りかける」というステップです。

 退職金制度の見直しについては労使合意こそ義務づけられていないもののしっかり話し合い合意形成の努力をすることが求められています。確定給付企業年金や確定拠出年金を採用する場合には、労使合意が必須となっており、役所に証明書を添付する必要があります。

 基本的には、労使合意をしっかり取る努力が必要です。大企業の場合は労働組合との合意ですみますが、中小企業の場合は「人事部の最若手を架空の労働者代表に仕立て上げ」合意書にサインさせる、方法は望ましくありません。

 中小企業においては基本的に、社長が全社員に語りかけることが必要です。新しい制度に対する社長の考えや社員への思いを語ることで、社員は信頼や納得を得て同意をしてくれるのです。

 人事部長や金融機関のスタッフが詳細の説明をする場合であっても、最初の一言は社長が必ず語りかけるようにしましょう。それが新しい制度の満足、ひいては社員のロイヤルティの向上や定着率アップにつながるはずです。

 次回は最終回として「ベンチャー社長が『初めて作る退職金制度』のデザイン」について紹介したいと思います。

山崎俊輔(やまさき・しゅんすけ)
1995年株式会社企業年金研究所入社後、FP総研を経て独立。ファイナンシャル・プランナー(2級FP技能士、AFP)、1級DCプランナー(企業年金総合プランナー)、消費生活アドバイザー。
若いうちから老後に備える重要性を訴え、投資教育、金銭教育、企業年金知識、公的年金知識の啓発について執筆・講演を中心に活動を行っている。
企業年コンサルタントとしても活動しており、特に確定拠出年金については、業界団体である企業年金連合会で首席調査役として企業担当者の研修担当や企業向けガイドブックの執筆を行い、さらに厚生労働省社会保障審議会確定拠出年金の運用に関する専門委員会委員も務める(2017年2月から)。「人事労務」等専門記事、マネー誌でも執筆ほか、日経新聞電子版で『人生を変えるマネーハック』を連載中。
著者ウェブ  http://financialwisdom.jp  twitter: @yam_syun