現状把握で気をつけたい「内枠」「外枠」

 このとき、退職一時金に関する定め(退職金規程)と、企業年金制度に関する定め(企業年金規約)とのつながり方についてはよく確認してください。

 退職金規程でモデル退職金1000万円と記載し、「中小企業退職金共済からまず支給を受けて、差額を会社が一時金で支払う」というような書き方をしていることがあります。
 これを俗に「内枠型」と呼びます。この場合、中小企業退職金共済のほうで想定した支給額に至らなかった場合は会社が差額を補填することになります。

 退職金規定でモデル退職金500万円と書かれていて、企業年金規約でモデル支給額500万円(一時金受取の場合)と別途記載する場合「外枠」型と呼びます。企業年金制度が毎月の掛金拠出で着実に積立できていれば、会社が準備する額は退職一時金の枠だけでよく実際の準備額がぶれることはありません。

 中小企業退職金共済については、年1%を保証しつつ、運用実績によって追加の利回りを乗せたり乗せなかったりします。その不確定要素を会社が負っているかどうかは規定をよく確認してください。

 確定拠出年金については、掛金段階で会社の責任は終了しており、ひとりひとりの運用成績の違いによる受取額の多少が、会社の退職一時金支払額に影響を与えることはありません。

制度選びは後で。まず「何をしたいか」が先

 本書(本連載)では、もっぱら確定拠出年金制度の活用を紹介してきましたが、社長は「制度ありき」の議論を行ってはいけません。

 社長がまず意識するべきかは「何を変えたいか」「新制度で何がしたいか」という部分です。たとえば

・現役社員に「見える化」をして会社に対するロイヤルティを高めたい……社員の退職金の権利がどれくらい生じているかを開示する選択肢を考える。確定拠出年金かポイント制退職金が有効。

・将来に向けた資金繰りの不安定さを解消しておきたい……退職一時金制度の割合を引き下げ、共済制度や企業年金制度、確定拠出年金の活用割合を高めることが考えられる。

・現状の給付水準は高すぎるので引き下げを断行したい……将来支払いが困難になる恐れがある場合、早めにその引き下げを行いたい。退職金水準の引き下げは不利益変更にあたるおそれもあり、しっかり社員と話し合い納得を得る必要がある。

・年功序列的な制度設計であり、能力主義型に切り替えをしたい……賃金規定やボーナス査定について能力主義を採用しても退職金規程は年功序列型のままになっているケースが多い。賃金の多少と退職金の多少がリンクする制度に変更する必要がある。

・会社の制度運営負担を低くしておきたい……ポイント制退職金はポイントの累計管理が煩雑になり企業の負担も少なくない。中退共は制度運営コストがかからない。確定給付企業年金は制度運営コストが別途生じる。確定拠出年金の場合、制度運営コストはかかるがポイント管理は不要。

 制度設計のアドバイスを受ける場合も、社長が「こうしたい」というイメージを持っておくことで、より有効活用ができます。