「実は、新たな合弁会社を中国で設立しましてね。そんな厳しい中ですが、以前と同じことをやる必要が生じたんです。絶対に出元が分からないように処理したいのですが……」
不安を匂わす隆嗣の演技に対して、進藤は胸を張って答えた。
「ご安心ください。我々のルートは、決して辿られることはありません。追跡しようとしたら、地球を2周ほどしなければならないでしょう」
さすがに怪しげな会社や暴力団のマネーロンダリングをしているだけあって、システムに確固たる自信を持っているようだ。その進藤が、手帳とペンを取り出して問い掛ける。
「それでは、送金先と金額を教えてください」
隆嗣が内ポケットからメモ紙を取り出して渡し、進藤がそれに目を走らせた。
「香港のフォーチュン銀行ですね。ほう90万ドルですか、結構まとまった額ですね」
「手数料は16パーセントでしたね」
「いえ、18パーセントです」
進藤が無表情を装って言い放つ。
「中国だけではなく、世界的にこの仕事への締め付けが厳しくなっているのです。コネクションへ15パーセント、私の手数料が3パーセントで、計18パーセント頂戴します。新規のお客様へは20パーセントをお願いしているんですよ。伊藤さんは古いお客様ですから、これで精一杯のサービスと思っていただきたいのですが」
この筋への交渉は無意味と知っている隆嗣は、頷いて話を先に進めた。
「送金は2ヶ月後くらいを考えています。それでは18パーセントの手数料込みで106万2000ドルを、以前と同じケイマン諸島の口座へ送金すればよろしいですね」
進藤が几帳面にメモ帳へ記入しながら頷いた。
その日の午後、隆嗣は、乙仲業者に紹介された東京湾岸にある貸倉庫を訪れた。
7月からフル生産させて送り出したLVL製品は、東京揚げの分だけでもすでに1000リューベーを超えており、この倉庫内の一方の壁を隠すほど高く積まれていた。名古屋と大阪の分を併せると3000リューベー近い量で、保管料だけで月の支払いが数百万円掛かっている。
まだ引き取り先の決まっていないバンドルの山を見上げた隆嗣は、口元を引き締めた。
(焦る必要はない。これは将来への肥やしになればいいんだ)そう自分に言い聞かせる。