「今年は久しぶりに企業による内定者の“拘束”が起きているようです」
そう語るのは、新卒学生のための就職情報サイト・リクナビの岡崎仁美編集長だ。企業による新卒学生の“拘束”や“囲い込み”といえば、バブル期を思い出す人も多いだろう。各社が大量採用を競い合い、超売り手市場となったバブル絶頂の1991年卒の大卒求人倍率は2.86倍(ワークス研究所『大卒求人倍率調査』)。学生を囲い込むために、飲み会や食事に招待したり、国内や海外で行う豪華な“内定者合宿”を用意した企業があったともいわれている。
また、近年でいえば、団塊世代の大量退職に伴って新卒採用が活発化した2008年卒、2009年卒の大卒求人倍率はともに2.14倍(同調査)。当時も内定者に「内定承諾書」等の誓約書にサインをさせるなどして、心理的な負荷をかける事例が増加したという話も聞く。
しかし、今年はリーマンショック後の経済不況から回復基調にあったとはいえ、東北地方に甚大な被害をもたらした東日本大震災の発生直後。今後の経済不安が消えないにもかかわらず、なぜ企業による学生の拘束が起きているのだろうか。
「例年通り選考開始」企業が約8割
求人倍率は昨年並みの1.23倍に
その理由を探るために、まず震災後、各企業が新卒採用にどう対応したのか見ていこう。
東日本大震災が発生した3月11日は、多くの企業が新卒採用の選考を進行中、あるいは開始を控えた時期。企業と同じく学生たちも準備に追われていたなかでの震災に、「採用枠が減少するのではないか」「内定をもらえるのだろうか」など、戸惑いを覚えたはずだ。
しかし、大手企業は震災直後から次々に対応を表明。新卒学生向け就職情報サイトのマイナビでは「震災翌日から『震災対応情報』の公開を開始したところ、直後から続々と企業が対応をアップ」(望月一志・マイナビ編集長)されており、またリクナビでも企業の震災対応に関するページを用意したところ、「4月4日時点で、登録企業8000社中約3000社が情報掲載を行っていた」(岡崎氏)。学生を不安にさせない意味でも、多くの企業が今後の対応を明らかにし、真摯な対応を行っていたことがわかる。
では、具体的に各企業はどのような対応を取っていたのだろうか。リクナビによると、4月からの採用活動を停止した企業は対応表明企業のうち22%。従業員1000名以上の企業では約25%で、そのうち再開時期を「未定」としたのは14%、5月以降に開始が5%、6月以降は6%だった。震災後に大手金融機関や大手電機・自動車メーカーが選考時期の変更を相次いで表明したことを受け、「大手企業の多くが5月、6月以降に採用を延期する」というイメージを持った人は多いかもしれない。しかし実際のところ、延期した企業は少数派。学生は、ほぼ例年通りに活動をしなければならなかったようだ。