時には、収録スタジオに入れてもらい、当時人気絶頂だったアイドルを間近で見て興奮することもあったが、それ以上に「部外者の自分に、初歩的な機材の仕組みから専門的な放送技術まで、親身になって教えてくれ、次第に付き合いが深くなっていくことがうれしくて仕方がなかった」。

 それからは、累計で四半世紀にわたって放送業界に深く入り込み、フジテレビの東京・台場移転時には、多くのソニー製品を納入することにも尽力した。

スポーツ中継に広がる商機

 開拓者精神が薄れ、守りに入っていたソニーを辞め、ヴォバイルの日本法人の門をたたいたのが、設立直後の2011年の元旦だ。

 自らのキャリアを今後どう積んでいくのか、自問自答を繰り返す中で、日本法人社長でソニー在籍時に厚木のトップだった大木充に声を掛けられ、意を決して新天地に飛び込んだ。

 今も精力的に営業に飛び回り、靴底をすり減らす中で、放送と連動させるスマホ用コンテンツのアイデアは尽きない。

 テレビ朝日と同サービスの展開を初めて発表したときには、イメージとしてF1のドライバー席の映像を、スマホで見られるということを提案していたが、「例えば、野球でも人気選手の表情をずっと追い掛けるカメラを用意して、その映像をスマホに流す。フィギュアでもサッカーでも、コーチや監督目線の映像があってもよい」。

 放送を楽しむのはテレビ画面でという習慣が薄れる中、あくまでテレビ画面と放送を基点にし、映像の選択肢を増やして、新たな楽しみ方を提案する。ヴォバイルの挑戦はまだ始まったばかりだ。(敬称略)

(「週刊ダイヤモンド」編集部 中村正毅)

【開発メモ】msync-CAM(エムシンク・カム)

 放送の番組映像とスマートフォンやタブレットで再生する映像のタイミングを、遅延がないように同期させる技術。テレビ朝日とヴォバイルジャパンが共同で開発した。

 視聴者がより映像の臨場感を味わえるようにするため、スポーツ中継やコンサート会場などで別視点の映像を流すことを主な利用シーンとして想定している。