「アガっている」のではなく「アゲている」と考える

──私たちはふつう、本番であがらないように「普段どおりにやればいいんだ」などと言いますが、普段とは違う自分になったほうがいいんでしょうか?

和田 「本番」って毎日あることではなくて「非日常」のことですよね。非日常なところで普段と同じ自分でいるほうが、むしろ不思議なことだと思うんです。舞い上がるのは当たり前なので、「アガっている」のではなく自分の意志で「アゲている」と考えればいいし、「いつもと同じに」とか「自然体でやろう」とか思わずに、「本番の自分」に変えてしまう、スイッチを入れるんです。

──その「本番の自分」に変える、スイッチの入れ方を教えていただけますか?

和田 私が講演の際に実践しているスイッチを入れる儀式は、次のような流れです。
① 資料を演台に置く→②深呼吸する→③笑顔で会場を見渡す→④大きな声で「こんにちは」と挨拶する→⑤お辞儀する→⑥もう一度、笑顔

 この6ステップには30秒もかかりません。この間に私はもう一人の自分になっているのです。「さあ話すぞ、せっかく時間をもらっているのだから精一杯話すぞ」と決意しているのです。また、ここでいう「こんにちは」という挨拶の言葉は、会場にいる人をきちんと見渡して、大きな声ではっきりとゆっくり言うようにしています。

 緊張してアガっていると、動作が細かくせわしなくなって、話し方も早口になりがちです。深呼吸して動作をゆったり、言葉もゆっくり言えば、どれだけ心臓がバクバクしていようが、足が震えていようが、外見だけは落ち着いて見えるはずです。外側だけでも堂々としている「ふり」ができれば、見ているほうも安心して受け入れてくれる空気になります。そうなれば、その空気が話し手に良い影響を与え、落ち着いて話すことができると思います。