資産形成のプロである朝倉智也さんと、家計診断のプロである深田晶恵さんによる大好評対談企画の第3回。
「残念なお金の習慣」(第1回)、「金融商品との正しい付き合い方」(第2回)に続いておふたりの口から飛び出したのは、「親や先輩のアドバイスに耳を貸してはいけない!」というもの。果たしてその言葉の真意とは――。
親のアドバイスを真に受けていると大変なことに?!
――30代向けにメッセージを送るにあたって、本の中で深田さんは「いま30代の人は、親世代やバブル世代とは置かれている環境が違うことに目を向ける必要がある」、朝倉さんは「20年後を見据えた運用を行うなら、“新常識”を踏まえてポートフォリオを組むべきだ」と書かれています。いまの時代ならではの「お金の常識」について教えてください。
ファイナンシャルプランナー (CFP)、(株)生活設計塾クルー取締役。外資系電器メーカー勤務を経て96年にFPに転身。現在は、特定の金融機関に属さ ない独立系FP会社である生活設計塾クルーのメンバーとして、個人向けコンサルティングを行うほか、メディアや講演活動を通じて「買い手寄り」のマネー情 報を発信している。15年間で受けた相談は3000件以上。「すぐに実行できるアドバイスを心がける」のをモットーとしている。日本経 済新聞夕刊、日経WOMAN、日経ビジネスAssocie等でマネーコラムを連載中。おもな著書に『住宅ローンはこうして借りなさい・改訂3版』(ダイヤモンド社)、『女子必読!幸せになるお金のバイブル』(日本経済新聞出版社)などがある。
所属先:(株)生活設計塾クルー http://www.fp-clue.com/
ブログ:「お金のおけいこ」http://www.akie-fukata.com/
twitter:http://twitter.com/akiefukata
深田 親世代は、お金の話の前提となる経済環境の変化に目を向けないまま、古びてしまった“常識”で子どもにアドバイスをするので注意が必要です。30代の人からの家計相談でよく耳にするのは、親から「早く家を買いなさい」「社会人になったら、保険くらい入っておきなさい」と言われたというものですね。親世代は、「家を買って一人前」「保険に加入して一人前」という感覚があるようです。
でも、「家は早く買ったほうがいい」というのは、土地の価格や給料が右肩上がりに上がっていた時代の考え方です。保険にしても、親世代は「入っておけばお金も貯まるから」と言いますが、いまの時代に保険でお金は貯められません。個人年金保険などの貯蓄型の保険は加入時に利率が固定される商品ですから、いまのような超低金利の環境で加入するのは避けるべきなんです。
また、30代の職場での先輩にあたる40代バブル世代は、就職にあまり苦労を経験していませんし、景気が良かった時代の空気を知っているためか、お金について「かかるのはしかたがない」という感覚が強いと感じます。「消費する人間がいないと世の中が回らないんだよ」などと言いながらお金をバンバン使う人もいますよね。でも、いまは自分で自分の生活を守らなくてはならない時代ですから……。
朝倉 確かに、バブル世代はお金について無計画なまま「何とかなる」と思っている人が多そうですね。「国や会社が老後の面倒を見てくれる時代」は、もう終わったのだということに気付いていないのでしょう。
年金財政が逼迫している状況を見れば、今後、年金受給額の引き下げや年金受給開始年齢の引き上げ、年金給付額に対する税金の増税などが行われることも覚悟しておかなくてはなりません。
モーニングスター株式会社 代表取締役COO。1989年慶應義塾大学文学部卒。銀行、証券会社にて資産運用助言業務に従事した後、1995年米国イリノイ大学経営学修士号取得 (MBA)。その後ソフトバンク株式会社財務部にて資金調達・資産運用全般、子会社の設立および上場準備を担当。1998年、モーニングスター株式会社設 立に参画し、米国モーニングスターでの勤務を経て、2004年より現職。第三者の投信評価機関として、常に中立的・客観的な投資情報の提供を行い、個人投 資家の的確な資産形成に努める。 著書に『投資信託選びでいちばん知りたいこと』、『投資信託選びでもっと知りたいこと』(ともに武田ランダムハウスジャパン)がある。 twitter:http://twitter.com/tomoyaasakura
また、ニュースでよく目にするように、企業年金も多くが運用難に陥っています。今後は、給付額の引き下げを行わざるを得ない企業年金が増えてくるでしょう。おそらく、「老後はある程度、自分で何とかしてほしい」というのが国や企業の本音ではないでしょうか。60歳で定年を迎えてからそのことに気づいては、手遅れになってしまいます。
深田 私は、老後にやや過剰とも思われる不安を抱えている30代の人には、「まず冷静に状況を見極めて、できることから準備していくことが大切」と話しているんです。というのは、20代や30代の人と話をしていると「どうせ年金はもらえない」などと極端なイメージを持っている人が少なくないからです。
しかし、年金財政の状況が厳しいのは確かですが、年金は国の制度ですから「まったく受給できない」ということは考えにくいでしょう。それに公的年金は生きていれば一生受け取れる終身年金。老後の生活のベースになることは間違いありません。
ですから、まずは「ねんきん定期便」で将来受け取れる年金の見込み額を確認し、老後に不足する生活費をおおまかに見積もってみたほうがいいと思います。目標額がわかったら、それを目指して積立貯蓄をすること。まとまったお金が貯められたら、少しずつ投資にも挑戦してお金を“殖やす力”をつけることも必要でしょう。
漠然と「老後への不安」を持ったままにしていると、親世代のアドバイスにつられて「とりあえず個人年金保険に入っておこうかな……」といった誤った判断をしてしまいがちなんです。30代は貯蓄や投資にお金を回さなくてはならないのですから、保険料のような固定支出を増やしている場合ではありません。