抗体医薬などの分子標的治療薬の登場により、がんの医療は、克服ではなく、「生活の質を保つがん医療」へと目標を変えつつある。人口高齢化とともに、今後も増え続けるがんとどう向き合っていけばよいか、がん医療の最新事情を紹介する。

増え続けるがんによる死亡
人口の高齢化が最大の原因

 わが国の死因のトップは1981年から、がん(悪性新生物)で、現在も男女ともがんによる死亡は増加し続けている。2009年のがんによる死亡は、34万4105人(男性20万6352人、女性13万7753人)で、これは1975年の約2.5倍の数である。

 がんの死亡が増えている主な原因は人口の高齢化である。がんの死亡率が増加しているかどうかを調べる場合、高齢化など年齢構成の影響を取り除いた死亡率である「年齢調整がん死亡率」というデータが用いられるが、実は、この年齢調整がん死亡率は1990年代後半から減少に転じているのだ。つまり、高齢者が増えたために、がんでなくなる人が増えた、ということである。

年齢調整がん死亡率図表1「年齢調整がん死亡率の推移(75歳未満)」
(出典:独立行政法人国立がん研究センターがん対策情報センター)

 一方、がんになった人(罹患数)も、男女とも1975年以降増加し続けており、2005年のがん罹患数は1975年の約3倍になっている。がん罹患数の増加の主な原因も人口の高齢化であることがわかっている。

 ところが、年齢調整がん罹患率は、1975年から1990年代前半まで増加し、一旦横ばいになったものの、2000年前後から再び増加に転じている。つまり、年齢調整した死亡率と罹患率を比較すると、人口の高齢化によって、がんになる人は増える一方だが、亡くなる人はむしろ減っているのである。