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アップルの新型スピーカーは
なぜAI機能を強調しないのか

瀧口範子 [ジャーナリスト]
【第431回】 2017年6月12日
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 多くのメディアは、これはアップルのマーケティング上の戦略のためだろうと見ている。家庭用AIアシスタント市場に遅れてきたアップルは、アマゾンやグーグルとの真っ向からの競合を避けて、高性能スマートスピーカーとしてHomePodを売り出しているというわけだ。

 HomePodの349ドルという価格もそれを物語っている。これは、エコーの179.99ドル、廉価版である「エコードット」の49.99ドル、グーグル・ホームの109ドルに比べてずいぶん高く、競合製品として売り出すにはあまりにリスクが高い。一方、高性能スピーカーならば、少し高めの金を払っても納得するアップルファンが多いはずだ。

 また、シリが家庭用の雑多なアシスタントとして機能するには、まだ完全ではないということも、シリを前面に出さない理由として想像できる。アマゾン・エコーの「アレクサ」やグーグル・アシスタントも、完璧からは程遠い。高いレベルの完成度を目指すアップルとしては、雑多な要求が出る家庭用AIアシスタントとしてシリを売り込むことに躊躇があってもおかしくない。

発売に合わせて
「シリ」が大幅バージョンアップ?

 だが、最も容易に想像できるのは、12月のHomePod発売時に驚くような差異化を計ったシリを発表する準備している最中なのではないかということだ。

 ここでアップルの強みは2つある。多くのiPhoneユーザーを抱えるアップルは、彼らの予定や行動をシリに学習させて、HomePodに連携させることができる。その上で、HomePodが気の利いたリマインダーや情報を与えてくれるようになることも可能だ。これは、アマゾンには真似できない。

 また、アプリを忘れてはならない。iPhoneやiPadで築いた巨大なアプリの開発者コミュニティを、家庭用AIアシスタントにも拡大することができるのは、アップルしかない。

 アマゾン・エコーにはすでに1万2000を超える「スキル」と呼ばれるアプリが開発されている。スキルでは、拍子を取ってエキササイズの相手をしてくれたり、クイズを出したり、ピザを注文をしたりといった多様なことができる。

 エンターテインメント、健康管理、情報収集、学習など、音声でやり取りできるアプリの可能性はかなり大きく、それをアップルが無視しているとは思えない。憶測に過ぎないが、同社はすでに限られたディベロッパーらとびっくりするようなホームポット用アプリの開発を推し進めているのではないだろうか。

 高性能スピーカーとしての売り出しは、その点であくまでもカモフラージュのように見えるのだ。

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瀧口範子
[ジャーナリスト]

シリコンバレー在住。著書に『行動主義: レム・コールハース ドキュメント』『にほんの建築家: 伊東豊雄観察記』(共にTOTO出版)。7月に『なぜシリコンバレーではゴミを分別しないのか?世界一IQが高い町の「壁なし」思考習慣』(プレジデント)を刊行。

ビジネスモデルの破壊者たち

シュンペーターの創造的破壊を地で行く世界の革新企業の最新動向と未来戦略を、シリコンバレー在住のジャーナリストがつぶさに分析します。

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