こうした分析結果は、それを引用する人の意図によって大きく変わるものです。たとえば日本の電力会社は、こうした部分を引用して「原発の影響は直接的なものではなく、間接的なもの、つまり気の持ちようだ」という論調の白書を作っています。しかし、私はまったく逆のことを言い続けてきました。
「原発事故後の自殺者やうつ病の増加は、事故による目に見えない心理的な負担を与えられた結果なので、一つの実害ではないか」と。
どんなに頑張っても、結局は大きな力によって何もかも失ってしまう。ここまで頑張ってきたけれども、もう無理だ。震災や大事故といった大惨事により、直接か間接かに関らず多くの人がその影響を受けているのです。
被災地に入った歯科医師たちを襲う強いストレス
身元不明者の確認のため、全国各地から歯科医師が被災地に入りました。外見からは判断できないご遺体を、歯型から割り出す作業に従事するためです。
宮城県石巻市では、青果市場が遺体収容所になりました。彼らはピーク時で1日1000体のご遺体を見なければならなかったといいます。遺体は床に直接置かれており、歯科医師たちは、中腰の苦しい姿勢での作業が何日も続きました。歯型での身元確認が必要となる遺体なので、顔面などに損傷が激しい遺体がほとんどです。そんな遺体に向き合い、さらに身元が判明するとご遺族への引渡しもときには立ち会います。
日本歯科医師会の会長によると、事故や災害に際して、1人の歯科医師が1日当たりに対応できる限界は10体だそうです。そんななか、必ずしも十分とは言えない人員で、変わり果てたご遺体に向き合い続けていたのです。
現在、歯科医師たちは作業を終えてそれぞれの地域に戻っています。しかし、その彼らに大きな問題が起こり始めています。
被災地に入っている間は、現実とは思えない光景を目の当たりにしながらも、目の前のご遺体に必死に向き合うしかありません。悲しんでいる暇も、感傷に浸っている時間もありません。自分たちは支援のプロフェッショナルだという自負もあり、湧き起ってくる恐怖やショックという感情を押し殺していたようです。