元飲食店経営者がつくった
社内SNS「Talknote」

 社内SNSサービスには、「Talknote」「チャットワーク」、海外に目を向けたら「Slack」「Chatter」などがあります。ここでご紹介するのは、現在2万社以上の企業で導入されている国産サービス「Talknote」です。

 Talknoteは、必ずしも飲食店限定のサービスというわけではありません。同社の導入実績を見ると、飲食のほか、通信・情報サービス、広告、不動産、小売、医療・介護、美容、Web・映像制作など、あらゆる業種が並んでいます。

 ただ、本連載で再三述べているITサービスを選ぶときのポイント――サービスを提供する会社が「飲食店のことをわかっているか」「現場目線を持っているか」という点については、申し分ないと言えます。

 その理由を説明するには、トークノート株式会社の代表を務める小池温男さんのこれまでの経歴を振り返る必要があります。

 小池さんは、2010年にトークノート株式会社を設立する以前には飲食店を経営していました。さらに、実家も飲食店で、学生時代にも飲食店でのアルバイトを経験。「1万店規模の巨大飲食チェーンをやりたい」という夢を抱いていたといいますから、まさに筋金入りの“飲食人”だったのです。

 1店舗目を出店したのは2003年のこと。先述のように目標は「1万店」だったため、多店舗化に向けてすぐに動き出し、わずか2年で4店舗、従業員40人ぐらいの規模まで会社を急成長させました。

 急速な事業拡大に伴って、従業員確保の課題にも直面しました。はじめは既存の求人サービスを利用して募集をかけたもののうまくいかず、「だったら、自分たちの課題を自分たちで解決できるサービスをつくろう」と2006年に成果報酬型のアルバイト情報サイトの運営を開始。これが小池さんとITサービスの仕事のかかわりのきっかけになります。

 自ら立ち上げたアルバイト情報サイトのおかげで従業員の人数は揃うようになりました。しかし、当時は「人が増えれば、仕事はまわるだろう」という考え方で、社内のコミュニケーションをまったく意識していなかったため、人が増えれば増えるほど、組織としてはまとまりを欠いた状態に陥ってしまいました。

 小池さんは、アルバイトスタッフひとりひとりの顔も名前もわからないし、それぞれの現場でどんな問題が起こり、何に困っているのかもわからない。一方、アルバイトスタッフも社長である小池さんがどんな人で、会社がどこに向かおうとしているのかわからないまま店に立っている。そんな状態でした。

 本部と店舗間や、従業員同士のコミュニケーション不足によって、社内にはさまざまなストレスが生じるようになりました。問題が顕在化するに至って、小池さんはようやく「社内のコミュニケーションを何とかしなければ」と気づき、問題解決のための取り組みをはじめます。

 月1回の全社ミーティング、グループウェア、スカイプ、ブログ、ミクシィ……さまざまな方法やツールを検討し、試したそうですが、なかなか「これだ!」という決定的なものはありませんでした。そうこうしているうちにアルバイト情報サイトを運営していたインターネット部門の従業員が大量退職。サイト運営がままならなくなり、会社の経営も危機を迎えることになってしまうのです。

 こうした経験を経て、小池さんは仕事をするうえでのコミュニケーションの重要性を切実に痛感したそうです。

小池 「どんなにすばらしいビジネスモデルを考えたとしても、それを運営する組織が自滅してしまっては、うまくいくわけがありません。では、自滅しない組織を作るためにはどうすればいいのか。個々のスキルだったり、会社の体力だったり、いろいろな要因はあるのですが、いちばんの根底はコミュニケーションなんじゃないかと。組織内の人と人をつなぐコミュニケーションの基盤がなければ、何をやっても同じ結果になってしまうと思ったんです」

 そこで、組織内のコミュニケーションを支援するためのITサービスを立ち上げる決意をして、作ったのが社内SNS「Talknote」だったのです。

 サービス立ち上げ当初は、知り合いの飲食店経営者仲間の伝手を頼ってユーザーを広げていったこともあり、導入企業の100%が飲食店だったそうです。

 Talknoteには、表立って語られてはいませんが、かつて飲食店を経営し、自分と従業員間の、または従業員同士のコミュニケーションで悩んだ小池さんの経験が間違いなく活かされています。

 こうした歴史を振り返れば、Talknoteと飲食店との相性の良さがわかっていただけるのではないでしょうか。