スマートグリッド化された都市とはどのようなものか。欧米ではひと足先にスマートグリッドが進んでいる。そこには日本の進むべき道のヒントがたくさんある。
(「週刊ダイヤモンド」編集部・片田江康男、小島健志、後藤直義)

「日本は中国や韓国、台湾から電気を買ってくればいいのに」

 大手外資系IT企業で、スマートグリッド関連の部署で働く田中利彦さんは4月、ドイツへ出張した際に現地の同僚にそうからかわれた。

 そのドイツ人はもちろん、日本の電力網が海外とつながっていないどころか、10の電力会社が地域独占体制を敷いていることを知っている。そのうえで、冗談半分に言っているのだ。

 実際、こうした硬直的な構造のせいで電力不足に右往左往する日本は、スマートグリッド導入が進められている欧州からは滑稽に見えるようだ。欧州では電力網が国をまたいで敷設されており、電力のやり取りを国家間で行うことは常識だからである。

 それどころか、今は大陸間をまたぐ構想が動き出している。デザーテック・プロジェクトでは、2050年までに欧州電力需要の15~20%を賄うことを目指している。欧州と北アフリカに太陽熱発電所や洋上風力発電所、太陽光発電所を建設し、各発電所は高圧直流電線で結ばれ、地中海を越えて電力が運ばれる。加えて50年までに200万人もの雇用を創出すると試算されている。

 参画企業は独シーメンスなどのプラントメーカーに加えて、ドイツ銀行などの金融機関も含まれている。合弁で運営会社を設立し、20年までに発電事業を採算ベースに乗せることを目標にしている。

 欧州全体で再生可能エネルギーの導入による二酸化炭素排出の削減と、省電力化を進めなければならないという課題を共有できていることはもちろん、電力の見える化やIT技術によって電力網を管理する基盤、いわゆるスマートグリッドが整いつつあるからこそ、こうしたプロジェクトが立ち上がるのだ。メーカーや金融機関が自由に参入できる開放された電力市場であることもそうだ。事実上、独占市場で他社の参入を許さない日本の電力市場ではこうした構想すら生まれない。

「オープン」「平等」が
スマートグリッド化のカギ

 右の図は一般的なスマートグリッドの概念図だ。カギを握るのは、スマートメーターと電力網全体をコントロールする電圧制御、それに蓄電池である。

 スマートメーターについては、日本ではいまだに設置されるかもわからない段階だが、欧米ではすでに普及期に入っている。

 イタリアは盗電防止や電気料金不払いの家庭へ電力供給の強制停止を可能にするために普及を進めていたが、現在、約85%もの家庭にスマートメーターが設置されている世界一の普及国だ。

 欧州では13年までに3世帯に1世帯の割合でスマートメーターが設置される予定だ。国によって細かな導入理由は違うものの、結果的に欧州では消費者の利用状況をリアルタイムで把握し、各家庭から集まる膨大な情報を基に、料金変動等の省電力化への工夫ができる土壌が整いつつある。