「停めさせろ!」
「それはできません」
毎日がその連続でした。
私は侵入禁止のポールを立てて不法駐車を防ぎますが、立てるたびになぎ倒されたり、グニャリと曲げられていました。
そのたびに、私は黙々とそれを立て直し、駐車をご遠慮願います。
殺気立った男と新宿署の連携プレー
ある日の夜、またもや倒されたポールを一人で立て直していると、その男と言い合いになりました。
その夜、男はいつもと様子が違いました。ひと言でいうと、「殺気」のようなものを私はその男に感じます。
男の顔は怒気を帯びて真っ赤に膨らんでいました。
「このやろう、いい加減にしろよ!」
男が私に向かってきます。私の見たのは、「鬼」でした。
もう、やられる。これでおしまいだ!
私は観念しました。
でも、次の瞬間です。
キキーッとブレーキ音がして、かけ寄ってきたのは2人の私服警官でした。
「そこまでだ! 新宿署だ」
間一髪でした。
2人の警官に襟首をつかまれて、男はパトカーに乗せられたのです。
へなへなと脱力した私に、「大丈夫ですか?」とやさしい言葉をかけてくれるかと思いきや、開口一番、警察官が言った言葉はこうでした。
「支配人、あんた無茶なんだよ!」
そして、そこからしばらく、ありがたいお説教を聞かされることになります。
刑事ドラマ顔負けの奇跡的なタイミング。
でも、実は奇跡でも何でもなかったのです。
私を助けにきてくれた警察官は、実は電話で冷たい言葉を言った人だったのです。
しかし、電話ではああいう態度は取ったものの、その後の私が気になってしょっちゅうパトロールに来てくれていたようなのです。
そういえば、何度か絶妙のタイミングで警官たちに助けられたことがあったのを思い出しました。
実は、警察のみなさんにも私は陰ながら見守っていただいていたのです。
あれから、その警察官はほかの地域に異動になりましたが、この歌舞伎町を心から愛し、命がけで守ってくれた人でした。
いまでも、私を同志と呼んで、近くに来たときには当ホテルに寄ってくださっています。