『日本一のクレーマー地帯で働く日本一の支配人』を書いた「歌舞伎町のジャンヌ・ダルク」こと三輪康子支配人が、数々のモンスタークレーマーとの闘いからクレーム対応の極意を伝える連載企画第2回。今回も、普通のホテルではめったにめぐりあえないお客様だ!

いかつい男6人の不法滞在にひとり立ち向かう

  ある日、フロントスタッフからいつものように携帯に呼び出しがありました。

「隣の部屋から大勢で騒いでいる声が聞こえる、とクレームがありました!」
「わかった、まかせて!」

  私は早速、問題のお部屋に立ち、ドアの呼び出しブザーを押します。

「お客様、お客様!」
「なんだよ……」

  ドアから顔を出したのは、金髪に鼻ピアスのいかつい男です。

  思ったとおり、男の肩ごしから6人ほどの男性が見えます。
  どうやら、誰かを取り囲んで、恐喝している最中のようでした。

「ちょっといま、忙しいからあとでね……」

  ドアがバタンと締まります。
  私は、またドンドンとドアを叩き始めました。

「お客様、お客様!」
「なんだよ、うっせえなあ!」

  今度は、大音響の怒鳴り声です。ビリビリと辺りが震えました。

「申し訳ございません。お客様、このお部屋はお2人までしか泊まれません。人数オーバーですが」
「いま、忙しいんだよォ!!」

  男が閉めようとしているドアに、すばやくヒールの片足を突っ込んで、私はドアを閉めさせません。

  男は本当にびっくりしたようです。その驚きが怒りに変わったように、一オクターブ高い声でこう叫びました。

「なぁに、すんっだよ!」
「申し訳ございません。私はここの支配人です。当ホテルでは、一部屋に大勢でのご宿泊はお断りしております」 

まるで「座敷わらし」のようだった私

  そう言うと、私は部屋のなかへとすたすたと入っていき、男たちの輪のなかに混ざりました。