ぼくは「うつ」になりかけました

 ぼくは、コンサルティングファームを志望するようなタイプの学生でしたから、もちろんプライドは高く、「自分はできる」と勘違いしていました。ですから、なおさら自分が全然仕事ができないダメな奴だと認めることはできません。

「おまえはコピーすらまともにできないのか」と言われたぼくは、さらに自分にムチを打ちました。「(絶対に仕事ができるようになってやる。いくら時間を割いてでも、立派なコンサルタントになってやる……)」。ぼくは、目を血走らせながらそう決意しました。

 しかし、です。できない人ができるようになるには、「なんとしても頑張る」という単純な決意だけではどうにもなりません。毎日6時に起き、出社前に仕事に関係のありそうな本を読んだり勉強したりしてから出社し、終電過ぎまで働く――。そういうライフスタイルに変え、なんとか周りの人たちに追いつこうとしましたが、やはり状況は変わりませんでした。優秀な人たちにアドバイスももらいましたが、まったく結果は変わりません。

 さらに残念なことに、ぼくは精神的にも体力的にも強いほうではありません。それなのに、毎日「おまえはダメだ」「いないほうがいいんじゃないか?」という視線にさらされ続け、それを跳ね除けるために早朝から深夜まで働く――。そんな日々に耐えられるはずがありませんでした。

 数週間たった頃、ぼくは自分の異変に気づきました。季節は秋。あんなに色鮮やかだった通勤途中の紅葉が、急に灰色にしか見えなくなりました。20代前半で食欲旺盛だったのに、食事もほとんど喉を通りません。そして、ぼくはベッドから起き上がれなくなり、2週間ほど「体調不良」という名目で家に閉じこもることになりました。

 もしあのとき精神科を受診していたら、なんらかの病名がついていてもおかしくなかったでしょう。この休職期間中、ぼくは葛藤を続けました。時には、「もう辞めてしまおう」という考えが、脳裏をよぎったのも事実です。しかしぼくは、最後にほんの少しだけ残っていた気力を振り絞り、もう一度「落ちこぼれ」から脱することを決意しました。

 できる人が書いたり言ったりしていることは、ぼくにはレベルが高すぎてマッチしなかったんだ。だったら、ぼくはぼくだけの“うまくいく方法”を少しずつでもいいからつくるしかない。そうしないと、ぼくはこのまま一生ダメ人間の烙印を押されたままになる――。そう考え、もう一度だけ頑張ることにしたのです。

後編に続く